Interview 17.05.10

成功するビジネスは“不”から生まれる。インキュベータ代表 石川明氏流のビジネスメソッドとは?前編

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Supershipの5つのバリュー「Super simple」「Super focus」「Super challenge」「Super honesty」「Super ジブンゴト化」。Experts Keynoteは、そのなかの「Super challenge」をテーマにして不定期に開催している社内勉強会です。毎回、外部からお招きした講師自身の経験をもとに、Supership社員のチャレンジに向けたキーワードを教えていただきます。

今回のゲストは、新規事業開発に特化した専門会社、株式会社インキュベータの代表取締役 石川明さん。リクルートで約7年間、新規事業開発室のマネジャーを務めつつ、社内起業提案制度「New-RING」の事務局として1,000件の事業案に携わった石川さんのチャレンジとは・・・?


■企業では個性や専門分野がないと生き残れない

―リクルートに入社した最初の4年間、リクルートグループのシンクタンクで営業マンとして働いていた当時の目標は、「何が何でも圧倒的な1番になること」でした。

「リクルートに入社したものの、はじめて配属されたのは、王道だと思っていた人材事業とは別の、調査などを受託している関連会社での営業職でした。当時は早くも期待されていないのだと感じましたね。その会社に配属されたきっかけは、他のメンバーたちが売り上げをあげていくなか、最下位だった内定者アルバイトの成績だったのではないでしょうか。マイナスからのスタートだったので、『これから会社で生き残っていくには与えられたこの場所で、圧倒的な1番にならなければいけない』と考えました。それからは、次々と高い目標を掲げ、必死にこなすばかりの毎日でした。自分への挑戦だったと言えないこともありませんが、その頃の自分には、自身の営業数字だけしか見えておらず、周りへ目を配る余裕はありませんでした。

やがて成績が認められ、異動を希望した本社の新規事業開発室で働くことに。そこで衝撃を受けたのが、周囲の個性豊かなメンバーたち。それぞれが、その人ならではの専門分野を持って、それを活かしながら仕事をしていたのです。彼らを見ていると、企業では専門性を身につけないと生き残ることが出来そうもないと痛感し、営業成績がいいだけでは取り柄にもならない、と感じました。

この経験によって、会社の同僚など、自分の身近な人たちのなかで“どうやって差別化していくか”“どうしたらオンリーワンになれるか”を常に模索するようになりました」

 

■自身の専門性によって人とのつながりは増える

―企業の中で生き残っていくためには、「専門性」や「個性」が不可欠であると感じた石川さん。石川さんはそれを身に付けるため、今まで社内で気にも留められていなかったあるものに注目します。

「広告のマーケットを商材やライフスタイルごとに情報誌化してきたリクルートでは、広告は今後も伸びる商材だと睨んでいましたが、新聞広告のマーケットはこの頃にはすでに開拓しきっていました。そこで私が着目したのが、折込チラシです。周囲の社員にも自宅から折り込みチラシを持ってきてもらうなどして、ひたすらチラシに関する情報を蓄積して分析しました。すると、各沿線やエリアでチラシの内容が違うなど、いくつもの気付きがありました。

さらに印刷会社やチラシの制作会社、折込会社にもヒアリングを行い、『エリア指定はどれだけ細かくできるのか』『サイズごとの価格はどのくらい違うのか』『ひとつのマンションの各戸で配布するチラシは分けることができるのか』など、細かく聞き込みをしました。そんな調査を続けていると、社内で『折込チラシはどうやら石川が詳しいらしい』という噂が広まっていったんです。すると、社内での人脈も広がり、チラシの専門家としてチームや事業への参加依頼が増えてきました。専門性という武器を手に入れると、人とのつながりが増え、できることの幅が広がるということが分かりました」

 

―専門性を身につけることで、多くのつながりが出来たと語る石川さん。専門性を身につけるチャンスについてこう語ります。

「僕はよく『新規事業をやりましょう!』とさまざまな人に声をかけます。何かの分野で1番にならなければ、マーケットでは生き残っていくことができないのが今の時代です。会社にとっても新規事業は大事ですが、そこで働く個人にとっても誰もやったことのない新規事業を起ち上げることで、専門性を身につけることはとても有効です。ある特定の分野で社内の第一人者になることも可能です。それが新規事業を起こす魅力のひとつとだと思います」

 

■All About事業起ち上げでの挑戦

―2001年、米国企業とリクルートの合弁会社で運営をスタートした生活情報サイト「All About」。石川さんはこの事業の起ち上げにも携わっていました。

「私の次の挑戦は、All Aboutを起ち上げて、その中心に“エディトリアル広告”などと呼ばれる『コミュニケーションを重視した“伝える広告” 』を据えたことです。エディトリアル広告とは編集された広告で、技術広告やタイアップ広告、ネイティブアドとも呼ばれたりします。当時のWeb広告は“バナー広告“”テキスト広告“”メール広告”などが主流だったので、これに代わる新たな広告手法を提供することが、今までにない挑戦だったわけです。

 またその当時のWeb広告には、クリエイティブ重視とトラフィック重視の2軸があったと思います。これは、クリエイティブを重視した大容量バナーやHTMLメールなどのいわゆる『見せる広告』と、トラフィックを重視したサーチワードやリスティング、アフィリエイトなどの 『集める広告』の2軸とも言い換えられます。そこで、エディトリアル広告やビジネスBlog、キャンペーンサイトなどの『コミュニケーションを重視した“伝える広告” 』という第3の軸を作っていく、というのがAll Aboutで実現しようとしていたことでした。当初、周囲の反応は冷ややかなもので、広告主からは『効果の見込めない広告は出せない』と言われることもありました。ところが、私としては、Web広告市場の変化と、All Aboutのメディア特性から、これしかないという確信があったため、自分を信じて進むことにしました。その結果、苦難を乗り越え、チャンスをつかむことができたと思います」

 

■徹底的なブランディングで、企業がリスペクトされる仕組みを作る

―All Aboutを通じて、さまざまなことに挑戦してきた石川さん。『伝える広告』を成功させたのは、企業と消費者の理想的な関係づくりだったという。

「インターネットが広く普及しだした当時は“広告より、口コミが正しい”という見方が強くありました。しかし、私は、嘘の広告と同じように嘘の口コミもあり、正しい口コミと同じように正しい広告もある、と考えていました。リクルート時代の仕事を通じてクライアントであるメーカー企業などが商品にかける思いやこだわりを知っていたので、All Aboutを通じて企業が消費者へ想いを伝え、消費者はそれを受け止めることで自分に合った選択ができるような理想的な関係を作りたい、と考えたのです」

 

―企業と消費者の関係をより良いものに変えるために石川さんが考案した新商品が、「スポンサードサイト」でした。

「All Aboutは1テーマごとに“ガイド”と呼ばれるその分野の専門家がつき、その専門家がテーマについて記事を書く、というシステムです。今でこそそういったスタイルのWebメディアが増えてますが、当時はまだ運営側である編集部やその道の専門家でも中立的な立場にいる人が執筆した記事を掲載するのが一般的でした。僕はこれを企業に属する専門家に、企業の立場で書いてもらうことはできないか、と考えました。

そこで、当時白羽の矢を立てたのは、旭化成ホームズ株式会社の担当者の方でした。旭化成ホームズには住宅分野のさまざまな専門家がいらっしゃいましたが、そのなかでも『二世帯住宅』に特化して研究をされている社員の方に“ガイド”になっていただこうと考えました。

執筆いただく条件の中に『All About内で会社の宣伝はしないこと』というものを入れました。All Aboutは中立のサイトなので、そこで自社のアピールばかりすると逆ブランディングになりかねません。この記事はよく見ると旭化成ホームズの人が書いているのか、と気付かれるくらいがちょうど良いブランディングにつながると思ったので、そう説明しました。そのスタイルに賛同して記事を執筆いただいた結果、旭化成ホームズの社員”ガイド“の方にテレビや雑誌などから取材依頼が増えました。All Aboutに対するメディアへの信頼感と、企業のもつ専門知識の相乗効果が生まれ、当初考えていた、企業がリスペクトされながらも消費者のためになる記事を提供する、というスキームが確立しました。

All Aboutのブランド価値を守るためには、ガイドの知見レベルが大事になってきます。そのため、当時はガイド希望のお話が大企業からきても、質を守るためにお断りすることもありました」

 

■情報を発信する個人を応援したかった

―石川さんのAll Aboutでの挑戦は、情報を発信する個人への応援にもなったようです。

「個人が1つの企業に縛られて働かなくてもいい。転職もあり、という文化を創るのにリクルート社は寄与してきたと思っていますが、そこから更に一歩進んで、何かのスキルを持った人が副業として別の会社で働くことが許されてもいい社会になってくると私は思っていました。

All Aboutで、この人はこの分野において光っている、というお墨付きを与えてあげられるような仕組みづくりをし、実際に前述のガイドなどで個人の専門家を支援するビジネスを行いました。

物事にはさまざまな側面があります。この事業を立ち上げたのは、マスコミの一方的になりがちな意見以外にも、All Aboutの事業を通じて、個人で情報発信する人を応援出来たらという思いもあったからです」

 

この前編では新規事業を通じたチャレンジについて伺いました。

後編では石川さんのオリジナルメソッドから、ビジネスの本質に迫ります。

 

<石川明さんプロフィール>

1988年、株式会社リクルートに入社。新規事業開発室のマネージャとして、多くの新規事業の立ち上げに関わった。2000年には、リクルート社の新規事業として株式会社オールアバウトを起業。現在は、株式会社インキュベータの代表取締役を務める。著書に『新規事業ワークブック』(総合法令出版)、『はじめての社内起業 「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ』(自由国民社)がある。

石川さんの著書はこちら↓
新規事業をカタチにする石川流メソッド「新規事業ワークブック

社内に特化した新規事業のバイブル「はじめての社内起業

まとめ
石川さんの講演の前編となる今回。たくさんのキーワードがあるお話のなかからポイントをピックアップしてみました。

①専門性を磨け
専門性や個性を磨くことで、新しいつながりや仕事が生まれる。新規事業はそれを生み出せる場である

②新しいインターネット広告の在り方を確立
自分の信念を信じ、All Aboutで広告主も消費者にとってもメリットになる「エディトリアル広告」をスタート

③企業がリスペクトされる仕組みづくり
エディトリアル広告でブランディングを行い、企業自体の価値も向上させた
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