【Inside SuperTech】サービス開発の秘訣はテクノロジー×トレンドへのアンテナ 〜インタラクティブに進化する検索の未来とは?
Supershipの高度な技術力を支えるメンバーそれぞれのスキルの基盤となった「過去」を紐解き、Supershipのテクノロジーの「現在」にどう生かされているのかを分析し、さらに、テクノロジーの「未来」を考えていく連載企画「Inside SuperTech」。
初回に登場するのは、Supershipのデータソリューションスタジオのスタジオ長としてサイト内検索ソリューション「Supership Search Solution(S4)」などの開発メンバーを束ねる宇都宮 紀陽。
日本最大級のトラフィックを誇るポータルサイトで検索機能を開発した経験から、5G時代の検索まで、さまざまな視点から検索をテーマにテクノロジーを語ってくれました。
【過去 -PAST-】
スマホで検索の“パラダイムシフト”が起こった
宇都宮が検索事業に携わったのは12年前のこと。当時所属していた国内最大級のポータルサイトの運営会社で、「パーソナライズドサーチ」を手がけるチームに自ら希望して異動したことがきっかけでした。
「最初の業務は検索ではなくデータマイニングだったのですが、その業務のなかで一番印象に残っているのが、自社でADSLサービスを開始したことでした。サービスの開始を発表した際に、検索クエリのデータを分析していたのですが、当時はまだ常時接続が主流ではなかったにもかかわらず、とてつもなく大きなピークがありました。それまでの検索は『技術的なことを調べる』という限られたユーザーのニーズを満たしていましたが、これからは世の中の動きに対するリアクションとして検索が活用される、つまり検索がリアクティブな対話型のサービスになっていくのではないか、と感じました」
「私を含め当時の部署のほとんどのエンジニアは、莫大なトラフィックがあるなかで、コストをかけずに検索結果を返すアプリケーションのコードを書き、ネットワークのことも考え、検索結果を速く返すためのインフラ構築のファシリテーションを行い・・と、検索機能の構築だけでなく、バックエンドからフロントエンドまで全てを一気通貫で担当していました。最近ではエンジニアの業務範囲は分断されつつある傾向がありますが、私自身は『インフラ設計からフロントエンドまで携わってこそ一人前のエンジニア』だと思っています。現在のチームでは、私と同じようなスタンスで仕事に取り組んでくれているエンジニアが集まってくれているので、Supershipではエンジニアそれぞれが幅広い業務を見ていることが多いですね」
2013年、宇都宮は、山崎 大輔(現・Supership 取締役CTO)が起業したスケールアウト社に合流。KDDIが運営するau ポータルの検索システムの開発をスタートしました。
この時、au ポータルの検索ログを見た宇都宮は、ユーザー側の変化を感じ「パラダイムシフトが起きた」と話します。
「昔は検索といえばパソコンから行うのが主流で、パソコン自体もどちらかというとリテラシーが高い人が使うものだったと思います。そのため検索するときも、単語と単語の間にしっかりスペースを空けるのは一般的なことでした。
ところが、auポータルの検索を手がけるようになって検索クエリログを見ていくと、単語と単語の間のスペースを空けていなかったり、ひらがなやカタカナが混在していたり、タイプミスがあったりと、今まで常識だと思っていた検索行動とはまったく違い、衝撃を受けました。分析していくと、当時からGoogleでは『検索ワードが正確でなくとも、それっぽい入力をすればそれなりの検索結果が返ってくる』という体験を提供していて、ユーザーもスマホの素早いフリック入力に慣れていたので、他のサービスの検索窓でも同じように入力しているというのが見えてきました。Supershipが開発に携わった当初のauポータルではそのユーザーの変化に対応できていなかったので、これはきちんと拾って結果を返さなくては、と思い、まずはそこに注力するようになりました」
ユーザーの意識の変化に対応するため、取り組んだのは地道な「検索辞書の整備」でした。
「検索しても結果が1件も表示されないワードを『ゼロマッチワード』と呼んでいますが、このクエリが重要となります。それらを、何故表示されないかを分析したうえで辞書に追加していき、相対評価をした上でリリースする、という流れを高速で行いました。この作業は専門のメンテナーに取り組んでもらっています。機械学習でもある程度のクオリティは担保できるのですが、最後の判断の部分では人間の細やかな視点が必要だと考えています」
【現在 -NOW-】
時代の流れを読み取り、「お客様の声」に応える
そして2017年、au ポータルの開発・運用経験を活かして開発された、サイト内検索ソリューション「Supership Search Solution(S4)」が提供開始されます。
S4では、検索データを「お客様の声」と捉え、データを活かした顧客への価値提供に取り組んでいます。
「何かが世の中で起きると、ユーザーがそれに対してのリアクションとしての検索をするようになってきていますが、S4の『お客様の声』も、それと同じことです。
日本には四季があって、季節ごとのトレンドが常にあります。例えば、今年はゴールデンウィークが10連休で、年明けから旅行のニーズがかなり高まっています。検索ではそれがデータで見えてくるのですが、分析をする上では、『10連休だから行楽系のニーズが顕在化しそう』という認識を持ったうえでデータを見る必要があります。こういった感覚値はトレンドへのアンテナを常に張り続けることで身に着けていくものだと思うのですが、データを見たときに『やっぱり』と“答え合わせ”をできるのが面白いですね。
また、芸能人が不祥事を起こしたりすると、関わった作品が回収・販売停止になったりすることがあり、その前に買わなければという特需が生まれることがしばしばあります。その流れを読み取り、ユーザーの需要に応え、クライアントの望む結果を出すために検索結果を調整することもあります。この点から検索は人の行動や欲望の現れであるともいえますが、それがダイレクトに見えるところも興味深いですね。
現代では、日本国民のおよそ3人に2人がスマートフォンを保有(※総務省「平成30年度 情報通信白書」より)するなど、インターネットが社会インフラに近いものとなり、検索も社会と連動した動きを見せるようになってきています」
時代の流れを読みながら開発を進める、という考え方は宇都宮だけでなく、データソリューションスタジオのメンバーにも浸透しています。
「先にお話ししたような、インターネットと現実世界をリンクさせて考える感覚値はもちろん、課題解決能力の高さも私たちのチームの強みだと思います。日々立ち向かわなければならない課題に対し、問題を課題と認識する能力が高いですね。検索というサービスをつくる上では、神経質であるべきだと思っているので、問題意識の高い人たちが集まったことは非常に幸運だと感じます」
【未来 -FUTURE-】
5G時代の到来で検索は“インタラクティブ”に
宇都宮はテクノロジーの進化の先にある、検索の未来をも見据えています。
「インターネットが生まれてからもうだいぶ経ちますが、検索行動の多くはまだテキストで行われています。しかし世の中のコンテンツを見ると、テキストとバイナリ(動画や画像など)はもう半々くらいになっています。これを踏まえると、視覚的に検索させるものが今後増えていくと思っていて、私自身の開発領域としては、まずは画像検索に取り組んでいきたいと考えています。
5G時代になると、ユーザーが求めるのはインタラクティブな検索になるでしょう。映画『マトリックス』では、VRの世界にいる主人公が、武器が必要になったときに目の前に武器が並び、その中からライフルを選ぶ、といったようなシーンがあったかと思いますが、そのうち同じようなことがARホロレンズを使ってできるようになると思っています。そのために、どのようなシステムが必要になるのか、そのためにはどんな技術を身につけておかなければいけないかはチームでも話題にあがっています」
5G時代を前に、よりインタラクティブな検索が世の中を変えることを予想している宇都宮が「一番ワクワクしていること」を最後に聞きました。
「自動車を運転していても検索ができるようになってほしいですね。今だと、運転中に調べ物をする場合は一旦車を停車させてスマホで調べる必要がありますが、運転しながら『ここ行きたい』などと話しかけて検索できたら良いと思います。また同時に、車にeSIMが搭載されるようになると、検索だけでなく決済もできたりするようになります。そこは未来として非常に楽しみですね。
80年代の海外ドラマで『ナイトライダー』という作品がありましたが、車にAIが搭載されていて、話しかけると何でも答えてくれる。そういった世界はそう遠くないうちに現実になると思います。私も5G時代の”インタラクティブな検索”に対応できるように、より技術を磨くべく、日々精進していきたいですね」
(おまけ)宇都宮がオリジナルで製作した(!)「Supershipスニーカー」を履いてポーズをキメてもらいました。