セミナーレポート

「VR×ストーリーテリング」の現在と未来 〜世界の映画祭で注目を集めるVR映画〜 #XR Kaigi 2019 セミナーレポート

2019年12月3日・4日に開催された「XR Kaigi 2019」。

VR・AR・MRといった、XR領域に関心を持つ開発者やクリエイターに向けられたカンファレンスで、産業利用からエンターテインメントコンテンツまで、XRにまつわるセッションが40以上開かれました。

Supership VR戦略企画室のVRプロデューサー、待場 勝利も登壇し、「VR映画の未来 〜「VR映画の夜明け前」特別公演〜」と題したセッションを行いました。

先日、待場がプロデューサーを務めた作品「Feather」が2019年のヴェネツィア国際映画祭のVR部門にてプレミア上映され、待場も現地を訪れました。

ヴェネツィアだけでなく、世界各地の映画祭でVR部門が設けられるなど、ストーリーを伝えるための表現手法として注目が高まっているVRについて、待場による各映画祭の紹介も交えてお伝えします。


「VR映画」の定義とは?

Supershipの待場と申します。本日は宜しくお願いします。

Supership VR戦略企画室 待場 勝利

まず、「VR映画とは何か?」という点について考えたいと思いますが、よく言われているのが「映像世界の中に入ってストーリーを体験するコンテンツ」という説明です。そもそも「映像世界の中に入る」とはどういうことなのか?という点から考えなくてはいけませんが、正直、私の中でも正確には定義付けできていません。なぜならば「3DoF(※)で360°の映像がVRである」と言う人もいれば、「6DoF(※)でないとVRとは言えない」という人もいて、一方で「180°の3D映像もVRだ」と言っている人もいたりと、VRそのものの定義もあやふやになっているからです。

(※)DoF=Degree of Freedomの略。3DoF対応のヘッドマウントディスプレイは「頭の回転や傾き」を検知し、6DoF対応のものはこれに加え「頭の上下・左右・前後の動き」も検知する。

私の中でのVR映画の定義は3つです。1つは「没入する」ということ、もう1つは「ヘッドマウントディスプレイをかぶって鑑賞する」ということ。最後は「ストーリーがある」ということです。この3点を満たしているものはVR映画と呼ぶべきと個人的には考えているので、さきほど挙げたものはすべてVR映画であるといえます。

映画祭で注目を集めるVR

では、こうした“ストーリー性のあるVR作品”はどこで観られるのでしょうか。

昨今、世界中の映画祭では、VRを「次の映画の形」として取り上げ始めています。

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(「バベル」)がVR映画を制作して2007年にアカデミー賞を受賞しているほか、3大映画祭のひとつ・ヴェネツィア国際映画祭をはじめとする世界中の映画祭でVR部門のコンペティションが行われています。ここからは、VRが各地の映画祭でどのようにピックアップされているかを見ていきます。

【アメリカ】:サンダンス、トライベッカ

サンダンス映画祭

サンダンス映画祭は2007年から「New Frontier」というカテゴリで、スクリーン上で上映される映画以外に、ストーリーテリングが可能な先端技術を使った作品をピックアップしており、その中の一つとしてVRも取り上げられています。

360°VRからインスタレーションまで、たくさんの作品が出品されているのですが、その全てが完成されているかというとそうではありません。2019年の映画祭では50〜60作品ほど観たのですが、可能性を感じさせる作品は全体の1〜2割程度かなと感じました。クリエイターたちはまだまだ悩みながら作っているという現状が見えてくるかと思います。

トライベッカ映画祭

ニューヨークで開催されているトライベッカ映画祭では「Virtual Arcade」という上映会を開いています。こちらは2016年から行われているもので、6DoFやインタラクション、AR、VRなどを組み合わせたブースが20〜30ほど並んでいて、40ドル払えば90分間見放題となっています。

こちらではコンテンツ側がブースづくりに力を出していて、映像の中身のみならずブースそのものもすでにアート作品になっており、インスタレーションのように作品を楽しむことができます。

【ヨーロッパ】:カンヌ、ヴェネツィア

カンヌ国際映画祭

カンヌ国際映画祭は、「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督と作った「ブルーサーマルVR」という作品が2018年に出展され、その時に伺いました。

「ブルーサーマルVR」が出展したのは「Marché du film」という、コンペティションなどでは招待されていない今後が期待される映画作品を売買する“市場”のようなところです。こちらでも、3DoFの360°動画から、6DoF、インタラクションまで、先端技術を使ったストーリーテリングのコンテンツが並んでいます。

ヴェネツィア国際映画祭

ヴェネツィア国際映画祭は、世界3大映画祭と言われるカンヌ・ヴェネツィア・ベルリンの中で唯一、VRのコンペティション部門がある映画祭になります。2018年までコンペティションには日本の作品が1回もかからなかったので、私としてはここに何とか日本の作品を入れるということを目標にして努力してきました。結果として、私の作品では無いのですが、日本の作品が2019年は3つ入りましたので、自分のことのように嬉しく思っています。
またこのほか、「Best of VR」という、コンペティションには入れられなかったものの紹介すべきである作品を取り上げる部門があったり、「Biennale College Cinema VR」という、VRクリエイターの育成・発掘プログラムもあります。

2019年は、私がプロデューサーとして携わった「Feather」がこの「Biennale College Cinema VR」を通過し、映画祭でプレミア上映されました。これについては後半でご紹介いたします。

【アジア・日本】:釜山、ショートショート

釜山国際映画祭

アジアに目を向けると、お隣の韓国で開催されている釜山国際映画祭では、コンペティション部門ではないものの、VRが取り上げられています。

2019年は私も招待され、VR映画についてお話ししてきたのですが、非常に熱があって勢いがあり、国から援助もあるため、良い作品が多く出てきています。

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア

日本国内では、ショートショート フィルムフェスティバル & アジアで2018年にVR部門が設けられ、インタラクティブと360°動画の2つの部門で展開されました。それまでVRというと限られた層のお客様しか来なかったのですが、この時はいわゆる“映画ファン”にもVRに触れてもらい、毎日満員の大盛況となりました。

残念ながら2019年はVR部門が設けられなかったのですが、2020年は何とか日本国内の映画祭でもVRを紹介できるよう啓蒙活動に力を入れていきたいと思っています。

ここまで映画祭を紹介してきましたが、これら以外にVR映画が観られる場所ですと「ロケーションベースVR」(ヘッドマウントディスプレイを装着し、アトラクション等を連動させたVR体験ができる施設型VRコンテンツ)や「オンライン」が挙げられます。
映画祭やイベントでプレミア上映されたものが、ロケーションベースやオンラインといったプラットフォームにビジネスとして展開されていくという流れが多くみられます。

ロケーションベースは、アメリカ・ヨーロッパ・中国など各地で展開されていますが、どちらかというと「アトラクション」的な色合いの強い施設の方が人気であったりと、ストーリーのあるVR映画はなかなかコンセプトが伝えづらいのか、苦戦している状況が一部みられます。その一方で、中国のロケーションベースではストーリーのあるVR映画を押し出していきたいという流れもあり、期待したいところです。

オンラインプラットフォームですと、「Oculus Go」や「Daydream」といったデバイスを使い、デバイスごとにあるストアで作品を購入して鑑賞するという形になりますが、現状は“山積みになったコンテンツの中から良い作品を見つけ出す”ことをしなければいけなくなっていて、ライトユーザーには厳しい状況になっていると思います。

また、ストアで作品を販売するプラットフォームに目を向けると、コンテンツ制作側とプラットフォーム側がつながるハブとなるものが無く、制作側が一生懸命プラットフォームに営業をかけなければいけなくなっている状況があります。さらに、6DoFの作品は現状プラットフォームでは取り扱えず、コンテンツ制作側が独自でアプリを作ってストアに出さなければなりません。

こうした、クリエイターがコンテンツ制作以外の営業や販促活動に労力を費やさなければいけない状況を改善していかないと、オンラインにおけるVR映画の広がりは難しいのではないかと考えています。この点は、日本を代表するディストリビューターを作るべく、私自身も奔走しているところです。

「Feather」上映!ヴェネツィア国際映画祭に潜入

ここからは、「Feather」も上映された、2019年のヴェネツィア国際映画祭についてお話ししたいと思います。

ヴェネツィア映画祭の本祭は、ヴェネツィアにあるリド島という島で行われるのですが、そこから船で2分くらいの所にあるラッヅァレット・ヴェッキオ島というすごく小さな島が丸々「VR島」となっていて、そこでは40以上のVR作品が観られるようになっています。

ラッヅァレット・ヴェッキオ島

VRは、日常から乖離すればするほど没入感がより生まれるものなのですが、2分間の船旅が“日常から離れる”雰囲気を増幅させていて、ヴェネツィアはVRに没入しやすい演出が考えられていると感じました。

この島の内部にある、作品を鑑賞するブースですが、ニューヨークのトライベッカ映画祭と同様、コンテンツ側でしっかりと作り込まれていて、作品それぞれの世界観になっています。

「A LIFE IN FLOWERS」

この写真は、VR作品「A LIFE IN FLOWERS」のブースを撮影したものになります。入り口の門がドライフラワーで囲まれています。この中に入ってヘッドマウントディスプレイをかぶると、お花の香りが漂ってきて、それを楽しみながら作品を鑑賞します。なおこの空間のデザインは、日本のフラワーアーティストが手がけています。

2019年の受賞作品を見ていくと、まずグランプリにあたる「Best Immersive Work」を受賞したフルCG作品「The Key」は、ファンタジーな作品かと思いきや最後は社会問題までつながっていき、コンセプトも内容も良く、何より表現技法が面白いと感じました。
ブースに入ると、1人の女性が立っていて演技をしている。その人は「他の星から来ている」という設定で、「私たちの星が大変なことになっている。少し見てくれないか」と言われて観客はヘッドマウントディスプレイをかぶせられる・・という仕掛けになっています。

フルCG作品がある一方で、実写系のコンテンツも受賞をしています。「Best of VR Immersive Story」に選ばれた「Daughters of Chibok」は、ナイジェリアにあるチボックという小さな村を舞台とした作品です。作品の冒頭は非常にのどかな雰囲気を感じるのですが、実はこのチボック村では、2014年に100人以上の女学校の生徒がテロリストに誘拐された事件があったのです。
ストーリーが進むにつれ、この作品は、その残された家族たちの話であるということがわかります。いまだ帰ってこない娘の部屋の片付けをしていたり、娘の洗濯物を畳んでいたりする母と対峙するシーンで終わるのですが、通常のフレームのドキュメンタリーでは表現できない、非常に考えさせられるシーンとなっていて、これが決め手となって賞に選ばれたのではないかと思っています。

これらの受賞作品から考えられることは、ヴェネツィアでは、VR映画を「最先端の技術を使っているかどうか」で評価するのではなく、しっかりと作品として評価しているということです。コンセプトや、何を伝えたいかを第一に考え、地に足をつけて作品作りをすることがVR映画においても重要であるということです。受賞を逃した作品で、6億円ほどの制作費をかけて作られたものがあり、それも非常によくできていたのですが、評価の軸はそこには無かったのかなという印象を受けています。

ではここからは、今回上映された「Feather」についてお話ししたいと思います。まずはティザー映像をご覧ください。

今回、ヴェネツィア国際映画祭のレッドカーペットを「Feather」の伊東ケイスケ監督が歩きました。世界最古とも言われるこの映画祭のレッドカーペットを歩くというのは、私もずっと映像制作に携わってきたので実感できるのですが、非常に価値のあることです。見ている私も感慨深くなる瞬間でした。

レッドカーペットを歩く伊東ケイスケ監督

この作品は6DoFかつフルCGのコンテンツで、世界中の人に観てもらえるようにシンプルなインタラクションでセリフは入っておらず、それでいて深いストーリーというものを目指したものになっています。

今回、日本のチームで初めて、VRクリエイターの育成・発掘プログラム「Biennale College Cinema VR」に選出されました。このプログラムでは大きく6つに分けて、「ストーリー開発」「映像表現」「テクノロジー」「マーケティング戦略」「プレゼンテーション」「VR Lab(作品視聴)」について学ぶ1週間のワークショップを受けました。

ワークショップの様子

ここで一番力を入れたのが「ストーリー開発」でした。VRという、映画やテレビとは全く違うメディアでどのように深いストーリーを表現するか・・ということを、延々と、吐くぐらい議論させられました。その中で見つかったのがこの「Feather」における表現方法だったので、このワークショップは非常に意味のある1週間だったなと思っています。

最後に、「Biennale College」で講師の先生がおっしゃっていた言葉をご紹介したいと思います。

We are trying to develop a new art field.
We have to make an innovative work without a reference books.
This is very courageous.
If the work is completed, a new world will be opened.

我々は未開のアート領域を開拓しようとしている。
参考書も無い中で新しい作品を作らなければならない。
これはとても勇気のいることだ。
作品を完成させた時、きっと新しい世界が描けるだろう。

彼らはVRを、ちゃんとアートを伝えるメディアだと認め始めているのです。そのうえで、「私たちが今チャレンジしていることはすごいことだ」ということをおっしゃっていました。

ぜひ皆さまにもVR映画にチャレンジしていただき、今後もまた、ヴェネツィア国際映画祭で賞を取れる作品が日本から生まれると良いなと思っています。ご清聴ありがとうございました。

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