顧客データを整え、一人ひとりに合わせて情報を届けている。それでも継続利用につながらず、LTV(顧客生涯価値)が伸びない。そうしたときに見直したいのが、パーソナライゼーションの「目的」です。
Supership株式会社 マーケティングアーキテクト部 副部長の内田が、「意味醸成型マーケティング」という考え方をもとに、出し分けの先にある、継続して選ばれるための関係づくりを解説します。
「一人ひとりに合わせている」はずなのに
MA(マーケティングオートメーション)で配信を自動化している。CDP(カスタマーデータプラットフォーム)で顧客データを統合し、セグメントごとにおすすめやメッセージも変えている。それでも、購入や申し込みの後の継続利用が増えない。マーケティング責任者の方から、こうした悩みをよく伺います。
ツールや運用の改善は大切です。ただ、それとあわせて問い直したいことがあります。出し分けた先に、顧客とのどのような関係を目指しているのかという点です。
私は、パーソナライゼーションの目的は、出し分けの精度を上げること自体ではないと考えています。目的は、顧客一人ひとりの中に、その商品を選ぶ意味を育てることです。ここでいう「意味」とは、その人にとっての「これを選ぶ理由」を指します。機能への納得、ブランドへの信頼、作り手の考えへの共感などです。そうした価値がその人の大切にしていることと結びついたとき、商品は単なる選択肢の一つではなくなります。本記事では、この理由が育つように接点を整える考え方を「意味醸成型マーケティング」と呼びます。
「離脱したらクーポン」の前に、確かめたいこと
カートに商品を入れたまま離脱した人に、翌日クーポンを送る。料金ページを見て申し込まなかった人に、期間限定の割引を案内する。こうした施策で確かめたいのは、その人が購入しなかった理由まで考えて、次の情報を届けているかどうかです。
自分に合うか判断できなかった人もいます。似た商品との違いが分からなかった人や、今は買うタイミングではなかった人もいるでしょう。理由が違えば、判断の助けになる情報も異なります。クーポン自体が問題なのではありません。迷いの中身を確かめずに、誰にでも同じ方法で購入を促していないか。そこを見直したいのです。
クーポンでCVR(コンバージョン率)が改善しても、その後も選び続けてもらえるかは分かりません。獲得時の成果とLTVは分けて確かめる必要があります。そのうえで、次もこのブランドを選ぶ理由を届けられているかを見ていきます。
ファネルの段階だけでは、顧客の迷いは分からない
マーケティングファネルは、認知、比較検討、購買などの段階で顧客を整理する枠組みです。施策の役割分担や指標の整理には、引き続き使えます。
ただし、「料金ページを見たから比較検討が進んでいる」といった判断は、行動を手がかりに企業が立てた仮説です。仮説を立てること自体は必要です。問題は、確かめないまま次の施策を決め続けることです。そうすると、同じ「カート離脱」に分類された二人が違う理由で迷っていても、同じメッセージが届きます。セグメントを10から100に増やしても、同じ分類の人は同じ理由で迷っていると考える限り、この点は変わりません。

ファネルをやめる必要はありません。段階や属性による分類に加えて、その人が何を理由に選び、何に迷っているのかを考えます。その仮説を、次の接点で得られる反応に照らして見直していくことが必要です。
人は、機能と価格だけで選んでいるわけではない
アウトドアウェアで考えてみます。ゴアテックス(GORE-TEX)の機能や実績を信頼している人にとっては、防水性や透湿性といった仕様に加えて、素材の名前自体が選ぶ理由になることがあります。パタゴニアは、素材や製造の背景を公式サイトで公開しています。その姿勢に共感する人にとっては、ブランドの考え方も選ぶ理由になります。
機能や価格が重要でなくなるわけではありません。それに加えて、信頼できるか、共感できるか、ありたい自分に合っているかも選ぶ理由になり得ます。だからこそ、仕様と価格を伝えるだけでは、その人にとっての価値まで届くとは限りません。私は、こうした信頼や共感を育てる役割を、個別の獲得施策にも組み込む必要があると考えています。
意味は、ブランドと顧客の価値観のすり合わせで生まれる
企業が「あなたにとって価値がある」と伝えるだけで、本人がそう感じるわけではありません。ブランドの考え方を知った顧客が、自分の価値観と照らし合わせて「この商品を選びたい」と感じたときに、意味が生まれます。本記事でいう「すり合わせ」とは、この関係のことです。
そのため、顧客を詳しく知るだけでは足りません。ブランドの側も、自分たちが大切にしていることを伝える必要があります。なぜこの商品を作ったのか、どのような考えで素材や仕様を選んだのか。実際に使っている人がどこを気に入っているのかという声も、顧客が自分にとっての価値を考える材料になります。

一方で、顧客の反応を受けて変えるのは、ブランドの価値観そのものではありません。変えるのは、誰と、どんな意味でつながり、どんな体験を届けるかという戦略です。ブランドの軸は保ちながら、その価値が伝わる相手と伝え方を、接点で試しながら探っていきます。
カートで止まった人に、何を届けるか
レインジャケットをカートに入れたまま離脱した二人を考えます。一人は、商品ページでサイズ表を何度も開いていました。もう一人は、似た価格帯の商品と行き来していました。
ここから、前者はサイズが合うかを、後者はこの商品を選ぶ決め手を確かめたいのではないか、という仮説を立てます。前者には、体型の近い人の着用レビューやサイズの選び方を届けます。後者には、作り手が素材を選んだ理由や、長く使っている人の声を届けます。どちらにも同じクーポンを送る場合とは、情報の役割が変わります。

届けたあとは反応を見て、仮説を確かめます。「サイズ表を何度も開いた」という観測と、「サイズに不安があったのでは」という仮説は、分けて残しておきます。一度の行動で決めつけず、反応が増えるたびに見立てを更新していきます。
顧客の中で意味を「醸成」し、企業の中で理解を「蓄積」する
選ぶ意味が育つのは顧客の中で、企業が直接つくって渡すことはできません。企業にできるのは、作り手の考えや利用者の声など、価値を感じる材料と機会を用意することです。だから「醸成」と呼んでいます。
一方、企業の側には、接点で得た行動や反応、そこから立てた仮説が残ります。これを次の施策に生かせる形にするのが「蓄積」です。前の反応をもとに次に届ける内容を見直し、その反応から仮説を更新する。この往復が、意味醸成型マーケティングの中心です。

成果を見る際は、CVRやCPA(獲得1件あたりの費用)に加えて、継続利用や顧客単位のLTVも確認します。ただし、LTVは意味そのものを測る数値ではありません。取り組みの結果を確かめる指標の一つです。接点で得た反応と照らし合わせて、次の打ち手を考えます。
こうした判断を多くの顧客について続けるのは、人の手だけでは難しくなります。そのための手段として私が位置付けているのが、「ハイパーパーソナライゼーション」です。目的は、出し分けを細かくすることではありません。選ぶ理由になる情報を届け、得た反応を次の判断に生かすことです。技術を導入する前に、この目的を定めておく必要があります。
まずは一つの施策から見直す
直近の施策を一つ選び、次の点を確かめてみてください。どのような迷いを持つ顧客に、商品のどの価値を伝えようとしているか。届けたあとの反応から、何を確かめようとしているか。そこで得た理解は、次の接点に生かされているか。「誰と、どんな意味でつながり、どんな体験を届けるか」を実際の施策に当てはめることが、最初の一歩です。
Supershipは、この考え方をハイパーパーソナライゼーションとして実際の接点に実装するところをご支援しています。自社の場合はどこから手をつけるべきか、一度お話ししませんか。
※記載の社名・商品名は、各社の商標または登録商標です。
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