デジタル広告市場、中でもプログラマティック広告の市場は目覚ましい成長を遂げています。一方で、その仕組みが複雑になるにつれて、広告詐欺やブランド棄損など、新たな課題も浮き彫りになってきています。
最近では、巨大“海賊版”サイトへの広告掲載や不正サイトにおける広告詐欺など、デジタル広告の仕組みを悪用した犯罪も表面化しています。支払った広告費が悪用されることなく、目的にかなった効果を上げているかを確認するには、アドベリフィケーションの検討・導入が必要です。
Momentumでは、日本国内唯一のアドベリフィケーション専業ベンダーとして、さまざまなソリューションを提供しています。
しかしながら、その効果を十分に上げるためには、「専門のベンダーに任せておけばいい」と考えるのではなく、広告主も正しい知識と運用を知っておく必要があります。
本記事では、MomentumのHead of Business, Sales, Partnership を務める柳谷 俊輔が、広告主にとってのアドベリフィケーションの必要性について前後編に分けて解説いたします。前編となる今回は「そもそも何故アドベリフィケーションは必要なのか?」をお伝えします。
※この記事は、「Web担当者Forum」に寄稿させていただいた記事を再構成したものです。
アドベリフィケーションとは?
ad(広告)とverification(検証)という名前のとおり、「広告を検証する仕組み」です。
ここで“検証”するのは、
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などといった点です。
この仕組みが求められるようになった背景には、プログラマティック広告を配信・表示するテクノロジーが複雑化し、すべてを人の目で確認することが困難になってきたという点が挙げられます。
アドベリフィケーションの歴史は、2011年ごろに遡ります。この頃からアメリカを起点とし徐々に各国へ浸透し始めました。
近年、アドベリフィケーションが注目を集めるようになったきっかけの一つとして挙げられるのが、P&GのCBO(最高ブランディング責任者)=マーク・プリチャード氏が2017年1月のIAB年次総会で語った、広告の透明性に関する非常に強い声明です。ニュースや動画サイトなどで目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このように広告主が大きな声をあげることになったのは、その契機と言えるような出来事があったからに他なりません。
細かな例まで挙げると枚挙に暇がありませんが、2016年12月に起きた、ロシアのハッカー集団による約200億円もの被害が明らかになった事件は業界を震撼させました。
アドベリフィケーションは何を検証するのか
では、アドベリフィケーションで検証する事柄はどういったものでしょうか。大きく分けると、以下の3つです。
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それぞれどういったものか、詳しく見ていきます。
①ブランドセーフティ
その名のとおり、brand(ブランド)のsafety(安全性)を検証することです。
広告主のブランド毀損につながるようなメディアや、適正なメディアであっても、その広告には適さない面(ページや場所)に広告が配信されることを防ぐといった内容です。
例えば、大手メディア内の公序良俗に反するカテゴリのページに表示されていた場合、広告主のブランド毀損につながる可能性がある、というのは非常にわかりやすい例です。
具体例では、2017年3月、動画サイト内のヘイト動画に広告が表示されてしまっていたことにより、大手広告主が一斉に広告ボイコットを行ったのは皆さまの記憶に新しいのではないでしょうか。
それ以外にも、
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にはブランド毀損リスクがあるとする、といったように、広告主ごとに独自に基準を定めているケースもあります。
日本独自の「まとめサイト」に注意
ここで注意したいのは、日本市場の独自性についてです。
例えば海外では、ブランドセーフティにおける排除カテゴリとして一般的なものに「銃器など武器についての情報を取り扱う面」が挙げられますが、日本語のサイトではほとんどありません。
一方で、UGC(User generated content)の中でも質が低いとされる「まとめサイト」のようなWEBサイトは日本独自のものです。日本語や中国語、韓国語などのダブルバイト言語は、英語と比較すると自然言語処理の難易度が高いと言われています。
ブランドセーフティについては、こういった日本の独自性も鑑みたうえで、どのような面を「ブランド毀損リスクあり」と判定するか、慎重に見極めて運用する必要があります。
②アドフラウド
アドフラウド(ad=広告、fraud=詐欺)は、その名の通り“広告詐欺”のことで、広告の表示回数やクリック数等を不正に水増しして、過大な広告料金を請求することです。
前述した、ロシアのハッカー集団により用いられた主なアドフラウドの手法は、「Falsely represent(オークションURL偽装)」でした。
この手法は、オークション(入札)をするページを偽装し、オークション時とは異なるサイトに高単価な広告を表示させ、不正に広告収益を得ようとする、いわば“なりすまし”によるものです。
広告業界の中では、「人でないトラフィックによる広告表示をアドフラウドとする」と定義するケースもありますが、その一方で人が介在するアドフラウドも存在します。
たとえば、大量のスマホを用意して人力でクリックを引き起こす「クリックファーム」というものです。
そのため、グローバルではもう少し広範なものとして、人が介在する/しないを問わない「IVT」(Invalid Traffic=無効な(invalid)トラフィック)※ が定義されており、その中にアドフラウドが位置づけられています。
※ IVTの細かな定義についてはMRC(Media Rating Council)のIVTに関する資料をご覧ください。
さらにこのIVTはGeneral IVT(GIVT)とSophisticated IVT(SIVT)に二分されます。ひとことで説明すると、
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となります。
GIVT(悪意のない無効なトラフィック)
GIVTにあたるものの例としては、検索サイトやウイルス対策ソフトのクローラーによって発生する広告トラフィックが挙げられます。
これらのように、別の目的をもって行われるクローリングを通して副次的に発生した広告トラフィックはGIVTに分類されます。
SIVT(悪意のある無効なトラフィック)
一方、価値のあるコンテンツを持たない違法なメディアを運営する事業者が、広告主から支払われる広告予算を正当なメディアから横取りすることを目的としたトラフィックについては、SIVTとして分類されます。
その手法としてはHidden Ads(隠し広告)やAd Injection(広告の不正挿入)といったものが挙げられます。
これらSIVTについては、手法が広範に渡るうえに、日々新たな手法が生み出されています。また、反社会勢力の資金源の1つとも言われていますので、そういった情報をリアルタイムにキャッチアップできているかが、アドベリフィケーションツールを提供するベンダーを選定する基準の1つになります。
③ビューアビリティ
ビューアビリティ(viewability)は、「広告が閲覧される機会にあるか」ということを指します。
一般にデジタル広告は、広告主が選定した配信事業者によって、対象のメディアに配信されます。しかし、「配信された」=「広告が閲覧される機会にあった」というわけではありません。
具体的には、以下の図にもあるように、ページ最下部の枠に広告が配信された場合、ユーザーがスクロールせず次のページに遷移してしまうと、広告の配信はされたものの閲覧はされていないことになります。これはATF(Above The Fold)※ のようなファーストビューの枠の場合でも同じことが言えます。
※ ATF(Above the Fold)・・・ユーザーがWebページを表示したときにスクロールせずに閲覧できる領域のこと
お気に入りのコンテンツを見たくてすぐにページをスクロールする、もしくは次のページに移動する、といった行動は皆さんも取られているのではないでしょうか。
実際のところ、「配信インプレッション」と「閲覧される機会にあったインプレッション」における乖離は、どうしても一定数発生してしまいます。
「見られた広告」を可視化する定義
そこで、MRC(Media Rating Council)やIAB(The Interactive Advertising Bureau)といった広告業界団体では、「ビューアブルインプレッション(viewable impression)」という定義を策定しました。
これは、ディスプレイ広告の場合、広告面積の50%以上が画面に1秒以上表示された場合にカウントするといったものです。
この定義を用いることにより、配信実績だけではなく、広告の閲覧機会にあったインプレッションを可視化することが可能です。
リスクはどれぐらい存在する?
それでは、ブランドセーフティ・アドフラウド・ビューアビリティのリスクはどれほど存在するのでしょうか。
参考までに、Momentumがアドベリフィケーション推進協議会のホワイトペーパーで発表したNorm値 ※ を紹介します。
※ Norm値・・・基準値、標準値
アドフラウドの数値は、価値のない広告配信を行っている割合となります。
ブランドセーフティに関しては、ブランドイメージを低下させたり、ブランド自体の毀損につながっている可能性のある広告配信の割合、ビューアビリティの数値は全体のうち半数以上の広告が視認される状態になかったことを示す結果となっています。
各国のアドベリフィケーションベンダーでもこうした調査結果が発表されておりますが、国によって差異はあるものの、どの国においても共通してアドフラウド、ブランドセーフティ、そしてビューアビリティにおいて一定のリスクは存在しています。だからこそ、こうしたリスクを最小限に抑えるためにアドベリフィケーションツールへのニーズが高まってきております。
アドフラウド、ブランドセーフティ、そしてビューアビリティ、それぞれのリスクが避けられない中で、広告配信の成果をどのように可視化していくべきなのか。
Momentumでは、アドベリフィケーションにおけるリスクのないインプレッションを可視化する「True impression」(真に価値のあるインプレッション)という指標を定義しました。
この指標を用いた、プログラマティック広告における真の効果を可視化する仕組みや、広告配信で適切な費用対効果を出すための対策については、後編でご紹介します。
後編はこちら!
広告主のためのアドベリフィケーション入門(後編)〜4つのステップで“アドベリ”の費用対効果をアップ〜