「令和のネットマーケティングを考える」アドベリフィケーションセミナーレポート 第2回 〜パブリッシャーも頑張ってる!自社メディアのブランドセーフティを語ろう〜
公開日 : 2019.08.21
6月13日に行われた、株式会社Phybbit主催のセミナー「大手新聞社・大手アプリデベロッパーが考える 令和のネットマーケティング」。
その第2部のセッション「パブリッシャーも頑張ってる! 自社メディアのブランドセーフティを語ろう」では、朝日新聞、日本経済新聞、クックパッド、ロケットニュース24という4つの大手メディアの広告担当者が登壇し、Supershipからはプラットフォーム事業部 副事業部長の池田 寛がモデレーターを努めさせていただきました。
昨今のネット広告を取り巻く報道の影響から、各社のブランドセーフティへの取り組み、今後の展望までを語ったセッションの模様をお届けします。
<「令和のネットマーケティングを考える」アドベリフィケーションセミナーレポート> 第1回:主要ベンダーが語るアドベリの“今”&これから 第2回:パブリッシャーも頑張ってる!自社メディアのブランドセーフティを語ろう(当記事) 第3回:大手アプリマーケ担当が語る!データを活用した攻めと守りのマーケティングの取り組みと事例 |
<登壇者> 柳田 竜哉 様 朝日新聞社 デジタル・イノベーション本部 商品企画事業部 次長 今岡 寛晴 様 瓦野 晋治 様 小林 秀次 様 池田 寛(モデレーター) |
(以下敬称略)
「インターネット広告は本当に大丈夫なのか?」
池田 Supershipの池田 寛と申します。Ad Generation(アドジェネ)というパブリッシャー向けの広告配信プラットフォーム事業を手がけています。
今回のセッションは「パブリッシャーも頑張ってる!自社メディアのブランドセーフティを語ろう」というテーマですが、インターネット広告においては、広告主からパブリッシャーまで、たくさんのステークホルダーがいます。この関係者たち全員が、アドフラウドやブランドセーフティといった問題について真面目に考えないと、絶対に状況は改善されないと私は考えています。
こうした中で、パブリッシャーはどういった思いでどういった活動をしているのか、ということをみなさんにお伝えしたく、今回はモデレーターをお引き受けしました。よろしくお願いします。
柳田 朝日新聞社の柳田です。デジタル・イノベーション本部という部署で、主に朝日新聞デジタルなどの媒体における広告配信を担当しています。チームのマネジメントもしつつ、プレイヤーとして日々広告の運用も行っています。
今岡 クックパッド株式会社の今岡と申します。クックパッドにおけるネットワーク広告のマネタイズや、純広告の商品企画を担当しています。
瓦野 瓦野と申します。ロケットニュース24や英語版のSoraNews24、それにPouch[ポーチ]という女性向けの媒体を運営しているソシオコーポレーションでマネージャーをしています。
小林 日経の小林です。日経電子版のウェブサイトやスマホアプリにおける広告配信を担当していて、広告主サイドへの営業なども行っています。
池田 ありがとうございます。ではまず、私から最近のインターネット広告についてご説明します。去年、電通が発表した「日本の広告費」によると、インターネットやテレビ、新聞などを含めた昨年の国内の総広告費は約6.5兆円で、7年連続のプラス成長となっています。
そのうち、インターネット広告の広告費は約1.8兆円。前年比で116.5%の成長となっていて、こちらも右肩上がりとなっています。
その一方で…ガリガリにやせ細った女性の写真や、有名人の名前を勝手に使った、刺激的な広告も中には存在します。今回はこれらを「ワイルドな広告」と呼ぶことにしますが、実はこういった広告はかなり収益性が高いんですね。というのも、こうした画像を使うことで、猫が猫じゃらしで刺激された時のような、人間のフィジカルな反応としてのクリックを誘発しているんです。
ただ、こうした広告は昨今のマスコミ報道などにより、最近では是正傾向にあるとみられます。
みなさんご存知かと思いますが、去年から今年にかけてNHKの報道番組で「漫画村問題」や「フェイク広告」についての特集が断続的に放送されています。先日は放送内容をまとめた本も発売されました。
今日のセミナーはインターネット業界で勤めている方が多いかと思いますが、こうした流れの中で、「インターネット広告は本当に大丈夫なのか?」といった空気感が世論としても出てきているのではないかと思います。
インターネット広告に限らない、広告宣伝費“全体”の企業別ランキングを見ると、上位にはいわゆる「ナショナルクライアント」の会社が並んでいますが、それらの会社の広告はあまりインターネットでは見かけません。少なからず配信されてはいるとは思いますが、メインとなっているクライアントとは違うと思います。
なぜこのようなズレが起きるかというと、インターネット広告がこれだけ騒がれてるうえ「どこに表示されるかわからない」となると、本当に自社の企業ブランドを保ちたいクライアントからすれば、「怖くてお金は出せない」と思ってしまい、インターネット広告の出稿に躊躇してしまっているのではないでしょうか。
こうした流れの中で、パブリッシャーはどうやってメディアを運営しているのか?ということで、まずこの質問をみなさんには投げかけたいと思います。
Q. NHKの放送によりパブリッシャー側に変化はありましたか?
小林 変化は起きています。日経のメディアでは、運用型広告は導入していなくて、全ての広告を自社で、人の目でチェックし、媒体にそぐわないものは査閲でチェックするというやり方をとっていまして、先ほど話に出ていた「ワイルドな広告」は出てこないようになっています。
ある意味“時代遅れ”ともいえるかもしれませんが、そこまでしていてもここ最近は、広告主から「アドベリフィケーションベンダーのタグを入れて配信したい」や、「御社は計測に対応していますか?」といったことを当たり前に聞かれるようになってきています。
「日経」ブランドは、信頼が置けるものとしての地位を確立していると思っていたのですが、他のメディアと変わらず「媒体社はそういった計測ができて当たり前」「むしろやっていないのが問題なのでは?」と疑われるようになってきたのは最近の動きですね。
瓦野 ロケットニュース24は日経とは対極で、基本的にはOpenRTB(=アメリカのデジタル広告業界団体・IABが制定したルールに則ったRTB取引)での配信がメインなのですが、NHKでフェイク広告についての放送があってからは収益が上がりにくくなっていると感じています。SSPで、どういった広告主の広告が配信されているかがわかるログを見てみると、いわゆるブランド広告主の出稿意欲が減ってきていることを感じさせる数字になっています。
だからといって、収益を優先させて「ワイルドな広告」を出すのか?と言われると、それはそれで自分たちの媒体のファンを突き放すことで、「もう見たくない」と思われてしまっては本末転倒です。とはいえ収益を上げなければ運営を続けていけない…と悩みながら進めています。ですので、弊社に関しては変化は良くない形で表れてしまっているかもしれないですね。
柳田 やはりNHKで放送されますと、「ワイルドな広告」や運用型広告全般についての認知が社内外で高まるので、話が早くなったと感じます。
弊社ではIASのアドベリフィケーションツールを導入しているのですが、今回の放送を受け、特に外資系のクライアントから「IASの基準をクリアしている媒体にPMP(=Private Market Place。参加できる広告主とメディアが限定された広告取引市場)で出稿したい」という声があがったりすることもありました。ですので、そういう意味でもNHKでの放送は追い風になりましたね。
池田 今回の放送は、私たちの業界にとってはどこかネガティブなイメージとなっている部分もありますが、ユーザーにとっては「悪質な広告が減る」という影響も考えられるので、良い側面もありますよね。
今岡 クックパッドでは、純広告とOpenRTB、両方取り入れているのですが、正直なところ、放送によって大きく変化が生じたとは感じていません。
収益性がより悪化した…といったこともなく、むしろ流れてくる予算が増えるかも?とも思ったのですがそういったこともなかったですね。
池田 逆にチャンスだと思ったんですね。
今岡 そうですね、真面目にやっている(という自負のある)メディアにとっては追い風かと思ったのですが…。
Q. メディア側のブランドセーフティにおいて、困っていることは何ですか?またその課題に対して具体的にどういった取り組みをしていますか?
瓦野 配信される膨大な数の広告クリエイティブを、運用担当者としてはチェックしなければいけないことだと思います。正直な話、予算規模が小さいクライアントほど「ワイルドな広告」が出がちなのですが、一方でそれらを切ったからといって、そこに大手ブランドの広告主が入ってくるというわけではありません。
ですので、収益面を考えると予算の少ないクライアントもちゃんと受け入れなければいけないのですが、抜け道を突かれて悪質な広告を出され、それをまたブロックする…という繰り返しで、日々困っています。ブロック対象のドメインは現状でも500近くリストしてあるものの、無限に増えるドメインでブロックするのは限界があります。
ただ、あまりに酷い広告が出続けると読者のメディア離れを招いてしまうので、そこはしっかり止めていくしかないですね。
池田 ブロックする広告の基準はどうやって決めていますか?
瓦野 記事に対して求めているクオリティレベルやメディアのコンセプトなどを参考に、クリエイティブ、広告から飛んだ先のLPを確認しています。
LPは、内容に法律面なども含めて問題がないかどうかなどをチェックしつつ、それとは別の基準で、ロケットニュース24は記事メディアなので、最近増えてきている記事体裁のLPは、特に厳しい目で判断せざるを得ないですね。
柳田 インターネットのメディアで広告運用を担当している方って、自分が運用しているメディアに対して「作品」だったり「自分の子ども」のように、大事に思う気持ちがあると思うんですね。広告主の皆さんが自社の商品やサービスに対して思っていることと同じで、私たちも、ユーザーにとって有益でない広告を載せて自分たちのブランド価値を毀損したくはないと考えています。
そのうえで問題は3つあると考えていまして、まず一つはクリエイティブの問題。エロ・グロや、訴求している内容が違法だったりグレーゾーンにあるものなどが該当します。二つ目は「オートリダイレクト」といった迷惑広告の問題。一時期大流行りした「豪華商品が当たりました!」などと偽って強制的にリダイレクトする詐欺広告ですね。
そして三つ目がフォーマットの問題です。皆さんもたまに、下からふわ〜っと出てくるオーバーレイ広告に遭遇することがあると思いますが、正直うっとうしいですよね。これはそういったフォーマットを提案する事業社と採用するパブリッシャーの両方の問題であるのですが、これに関しては、最近では「Better Ads Standards」(=Googleも参加する広告団体連合・CBAが、ユーザーが嫌う12の広告表示スタイルを定めたもの)が日本にも適用されるという流れで、Google Chromeではこれに準拠していない広告を採用するメディアには警告を出し、改善しないメディアについては、広告を全て非表示にする厳しい方針も出されていますので、改善の方向には向かっていると思います。
池田 具体的な対策としてはどういったことに取り組んでいますか?
柳田 オートリダイレクトについては、ことし1月にGeoEdgeという会社のツールを導入しまして、検知された広告に関しては自社広告に差し替える対応をとっています。
お金はかかりますが、効き目はあり、毎日結構な数が引っかかっています。興味深かったのは、日本の読者に対してはあまりそういった広告が出ないということですね。日本国内のSSPやDSPなどのベンダーは結構がんばって対処されているのかなと感じますね。
池田 ツールは使ったほうがいいと思いますか?
柳田 そうですね。使えるなら使ったほうがいいと思います。
今岡 取り組んでいることは他のメディアとそこまで変わらないと思うのですが、弊社はレシピを扱うサービスなので、他のニュースメディアのように大人の方がひとりで見るというよりは、お母さんが子どもと一緒に料理するときに見たりすることも多くあります。
ですので、女性が淫らな格好をしていたりとか、いじめの描写があったりする広告が流れると、「娘に見せられません!」「もう使えません!」といった連絡をお問い合わせフォームからいただくんですね。そうすると、社内Slackで百数十名いるところにポーンと自動で飛ぶ仕組みになっていまして…。
池田 「何やってんだ、今岡!」と。
今岡 そうですね…(笑)。そうなると、社内的にも広告が悪く見られてしまって、広告のマネタイズを担当している者としては、攻めの施策を打ちにくくなってしまうというのが正直なところですね。そういった声が来るのは本当にごく一部のクリエイティブなのですが、それがネットワーク広告全体を一気に貶めることになるので、そこは苦労していますね。
池田 クックパッドでは具体的にどういった取り組みをされていますか?
今岡 外部の業者に、クリエイティブをこういう方針でチェックして弾いてくださいという形で委託して広告を見てもらって、まずいものは止めてもらっています。
小林 日経新聞は運用型を導入していないのですが、それでも結構困っていまして、3つ対策をしています。1つは、冒頭でもお話しましたが、入稿のときにクライアントやクリエイティブをすべて自社でチェックしています。
もう1つが、営業の理解度を上げるという点です。ブランドセーフティというと「どのツールを入れるか」といった話が多いかと思いますが、IASやMomentumなどそれぞれのベンダーのツールが、何ができて何ができないのかということや、そもそもの「アドフラウド」や「ビューアビリティ」といった用語を営業がしっかり理解するのも重要だと思います。
池田 そういった意味では、今回の放送は助かったのではないですか?
小林 追い風だったと感じています。そして最後の3つ目は、日経は海外でも名前が知られているメディアなので、朝日新聞もそうかもしれませんが、botなどの攻撃をよく受けます。防御もしますがいたちごっこですね。
池田 なぜ日経が攻撃を受けるんですか?
小林 そこにアクセスする読者のデータなどを引っ張り出したかったり、日経にアクセスしているCookieとして、データの売買をするのが目的ではないか、と推測しています。
Q. パブリッシャー視点で、広告事業者・広告主サイドに対してお願いしたいことはありますか?
柳田 私は10年近くデジタル広告の仕事に携わっているのですが、市場規模だけでなく、テクノロジーもずっと発展し続けていて、まさに右肩上がりで夢のある業界だと思うのですが…ここ数年は、一部の広告の表現や手法があまりにも酷くなっていると感じます。
お子さんがいらっしゃる方にちょっと伺いたいのですが、皆さん、お子さんにご自身のスマートフォンを渡して好きにブラウジングさせられますか?
池田 柳田さんの閲覧履歴は結構キツそうな感じがしますね(笑)。
柳田 まあ私は、仕事柄いろいろ見てしまうので(笑)。でも本当に、結構危機的な状況だと思っていまして、今回のイベントタイトルに「令和のネットマーケティング」とついていますが、「平成の頃はよかったな〜」というふうに、10年後には今やっている仕事は無くなってしまうのではないか、とすら思っています。
私は今45歳で、定年になるまで、あと15年はこの業界で働きたいと思っているのですが、このあと15年も本当に成長していくのか?という点は危機感を抱いていますね。モラルの問題だと思っています。
今岡 私は、そうですね…本当に、柳田さんと全く同じことを考えていました。ありがとうございました。(会場笑)
小林 私も柳田さんと同じで、悪質な広告を出すような広告主ももちろん良くないですし、それを受け入れるような媒体社もあってはならないと思います。この業界がこの先10年20年ずっと残るために、インターネット広告に関わる人全員に「自分が見て不快にならない広告でご飯を食べようよ」と、そう呼びかけたいですね。
瓦野 私も基本的には同じ考えで、ウェブにしろアプリにしろ、あまりに酷いものが流れ続けていると、離れる原因にもなりますから、広告主からパブリッシャーまで全ての関係者が考えなければいけない問題だと思います。
あわせて、クレジットカードでいうところの「信用情報」のようなものを事業者側で共有し、ブラックリストに載っているクライアントにはそもそもアカウントを作らせないとか、そういったところまで踏み込んでやってもらうようにならないと、ネット広告の未来はあまり明るくないかもしれないとは感じています。
池田 今回集まっていただいたのは、日経新聞や朝日新聞など皆が安心して見られる大手のサイトやサービスの方々でしたが、個人的には「いつもみなさんが見てるのってそういうサイトだけですか?」と思うんですね。2ちゃんねるまとめとか、そういったサイトを見ている方もいるでしょうし、それも含めて自由にやれるのがインターネットだと思っています。もちろん、法に触れる内容はダメですよ。
自由にやれるが故にバランスが崩れ、マズイ状況に陥っているのが今だと思います。そこのバランスを取っていくのが面白いと個人的には思っているので、そこも含めて、広告業界、ひいては関わる人たちの人生が豊かになるようなことをやり続けていきたいなと思いますね。