NRF APAC 2026 現地レポート:リテールメディアは”体験設計”で決まる

コラム

NRF APAC 2026 現地レポート:リテールメディアは”体験設計”で決まる

2026年6月、シンガポールで「NRF APAC 2026」が開催されました。このイベントに、Supershipもブース出展者の一社として参加しています。本記事では、3日間ブースに立ち続けたSupershipの菊地によるレポートをお届けします。


Supershipのリテールメディアセールス&マーケティング部の菊地です。店舗向けリテールメディアソリューション「Supership Touch Gift (タッチギフト)」と、ECサイト向けソリューション「S4シリーズ」を担当しています。

3日間、ブースで来場者の方々と話し続けていて、はっきりと見えてきたことがあります。あくまでブースで接した範囲の肌感ですが、リテールメディアの勝負どころは、NFCそのものでもデータを集めることでもなく、その先の「体験設計」と「意思決定の実行力」にあるということです。

その視点から、現地で感じた日本とAPAC市場のフェーズの違い、そしてAI時代に向けて取るべき次の一手について、書き残しておきます。

そもそもNRFとは何か

NRFは正式名称を「National Retail Federation」といい、米国の小売業界団体です。NRFが毎年1月にニューヨークで開催している「Retail’s Big Show」は、世界中から小売、テクノロジー、マーケティング、サプライヤーの最前線が集まる世界有数のイベントです。リテール領域における、年に一度の現在地確認の場として位置付けられています。

その「Retail’s Big Show」のアジア太平洋版が、今回参加してきた「NRF APAC」です。シンガポールで2024年に第1回が開催され、今年で3回目を迎えました。米国本会と比べると規模は控えめですが、APAC圏ならではのプレイヤーが集まり、北米とは少し違った課題感や論点が浮かび上がる場になっています。日本企業の出展も年々増えており、APACのリテールDXの最前線を一望できるイベントとして、業界内での存在感を増している印象です。

項目 内容
名称 NRF 2026: Retail’s Big Show Asia Pacific(NRF APAC、3回目)
テーマ The Next Now(次世代に備えよ)
会期・会場 2026年6月2日〜4日/シンガポール マリーナベイ・サンズ
位置付け 米国NRF「Retail’s Big Show」のアジア太平洋版

今年のテーマは「The Next Now(次世代に備えよ)」。”未来に備えよう”という呑気な言い回しではなく、”次の時代に、いま備えなさい”と促すような強さを感じるタイトルです。実際に会場で交わされていた議論も、その強い物言いに見合うだけの中身がありました。具体的にどんな話題が中心だったかは、後ほど整理します。

KDDI・電通グループと並んで、世界のリテール業界が集う場へ

NRF APACは、小売・テクノロジー・マーケティングの最前線が世界中から集まる、リテール業界の国際イベントです。Supershipがここに立てたのは、株主であるKDDIと電通グループ(dentsu Japan)が初めて共同で構えたブース「Connected Retail Japan」に、出展社の一社として加わったからでした。日本のリテールDXとマーケティングの高度化をAPACに発信するこのブースで、両社と肩を並べて自社のソリューションを出展できたのは、私たちにとっても手応えのある経験でした。

ブースに集まったのは、Supershipを含めて7社。トレジャーデータ、Fez、Broadsign、ADvendio、Johnsmith.ai、Ogury Japan×dentsuが顔をそろえました。データ基盤、店頭メディア、DOOH、アドテク、AIと、得意とする分野はそれぞれ違います。その各社が横並びで展示していたので、来場者から見れば、日本発のリテールDXプレイヤーをまとめて見渡せるエリアになっていたはずです。

Supershipの展示物は、以下の2つです。

Supership Touch Gift(タッチギフト)

店頭のNFC什器へのスマホタッチを起点に、来店客へスタンプやクーポンを即時配布できる店舗型ソリューションです。狙いは特典の配布そのものではなく、「来店したらタッチする」習慣を根づかせ、来店時にアプリが自然と開かれる状態をつくること。アプリが来店客と確実につながる”メディア”として機能してはじめて、メーカーからの広告収益という新たな収益源も見えてきます。メーカーは確実なリーチを、流通は販促+広告収益とデータを、生活者は来店メリットを得る、いわば”三方良し”の構図を目指すプロダクトです。

今回のNRF APACでは、什器の実機を置き、来場者にスマホタッチを体験いただくデモ展示を行いました。

S4Ads(エスフォーアズ:S4シリーズの1つ)

ECサイト運営者向けのリテールメディアソリューションです。検索結果ページや商品ページなど購買意欲の高い接点で、出店メーカー・ブランド(または自社)の商品を広告として配信できます。サイト運営者は”出店者からの広告費”を新たな収益源にできる構造です。商品データをそのまま広告として使えるため、専用クリエイティブ制作の負担も少なく、少額・短期間から導入できるのが特徴です。サイト運営者が持つ1stパーティデータを活かしたターゲティングや運用支援もあわせて提供しています。

いま潮流になっている「ECサイトのリテールメディア化」を、現実的な負担感で始められるプロダクトとして紹介しました。

こちらがSupershipの展示。タッチギフトのデモ什器を設置しています

会場全体を見渡すと、電子棚札(ESL)やスマートシェルフといった、フィジカル系の実店舗ソリューション展示がかなり目立っていました。タッチギフトの「店頭でデジタル体験を起こす」というコンセプトは、会場で繰り返し話題に上がっていた”店舗のコネクテッド化”の流れと素直に重なるもので、立ち位置としては悪くないと感じながらブースに立っていました。

議論は「AIを使うか」ではなく「AIに何を任せるか」へ

ここからは、現地でどんな議論が交わされていたかをご紹介します。

ひとことで言うと、会場全体の関心は、すでに「AIを使うこと自体」ではなく、「AIに意思決定と実行をどこまで任せるか」へと移っていました。昨年までであれば「データをどう集めるか」が主要な論点でしたが、今年は「集めたデータをどう意思決定と実行に変えるか」が中心軸になっていた印象です。会場でも「多くの小売企業が抱えているのはデータ問題ではなく、意思決定問題だ」というメッセージが繰り返し聞かれました。これは私自身、現地で何度もうなずいた言葉です。

会期中、登壇者や出展者の発言に共通して登場していたキーワードを整理すると、おおむね以下の4つに集約されます。

  1. Autonomous Enterprise(自律型企業):AIが自律的に判断・実行する前提への移行
  2. 意思決定・実行への重心移動:「集める」から「動かす」へ
  3. AI検索による発見の変化:人ではなくAIが商品を発見する世界
  4. 店舗のコネクテッド化:店頭が”測定可能なアセット”に転換

なかでも印象に残ったのは、海外のアドテク企業や大手リテールメディア事業会社などが登壇した「エージェンティック・コマースの台頭」というセッションでした。AIが「発見」から「コンバージョン」までの顧客ジャーニーを作り変え、それがコマースメディア戦略に何を意味するのか。昨年までであれば理論先行で語られていたテーマが、今年は実例ベースで具体的に議論できる段階に来ていました。この変化の速さこそが、テーマである「The Next Now(次世代に備えよ)」の意味するところなのだと、聞きながら腑に落ちました。

タッチギフトへの、APAC市場からの手応え

会場におけるタッチギフトへの反応は、想定していたよりも一段熱いものでした。日本と海外で反応のされ方は違いましたが、どちらにも共通していたのは、「タッチの素地はあり、体験NFCという用途はまだ新鮮」という構図です。

電子決済でスマホをかざす動作が日常化しているアジアでは物理的なタッチへの抵抗が低いものの、一方で「決済以外の目的でNFCにタッチして体験を得る」という発想自体はまだ広まっていません。この2つが重なったことで、海外の方々の興味を強く引きつけたのだと考えています。

日本の来場者(流通中心)の反応

NFCそのものは、もはや誰にとっても既知の技術です。だからこそ、日本の来場者の関心は「NFCそのもの」ではなく、「NFCを使ってどう体験を作るか」のほうに集まっていました。

「タッチを起点に、その先の来店データの可視化やCRM連携まで設計するのがタッチギフトです」という私たちの説明には、特に流通系の方から納得感のあるリアクションが返ってきた印象です。NFCタッチを単に「Webページに飛ばすトリガー」として使うのではなく、その先の顧客体験まで一気通貫で設計しているというポイントが伝わりやすかったようです。

「NFCのシンプルさは分かりやすくて良い」と評価してくださる声もありました。NFCはすでに広く使われている成熟した技術なので、仕組みのシンプルさは確かに強みになります。ただ、それだけで勝負にはならず、その先の体験設計が問われているということを日本の事業者の方々も明確に意識しておられました。

なかでも印象的だったのは、すでに店頭に自前のNFCを設置されているある大手コンビニチェーンの方との会話です。話題の中心は「どう体験設計するか」であり、「やはりそう(その論点に)なりますよね」と頷き合うかたちになりました。

整理すると、自前でNFCを設置した経験のある企業ほど、すでに次の課題(体験設計)に進んでいる、という景色でした。NFC什器を置くこと自体ではなく、その先で顧客に何を体験させるかが、いまの主戦場になっています。

海外(アジア中心)の来場者の反応

海外の来場者からの反応は、想定よりもかなり手応えのあるものでした。

電子決済やデジタル体験が洗練されている地域だからか、タッチギフトの飲み込みが速い。デモを見せて軽く説明しただけで、「これは面白い、ぜひ自社店舗で考えたい」と前のめりに話しかけてくださる方が複数いました。「要望があれば開発に着手します」程度の軽い会話でも、「ぜひ改めて話したい」というレスポンスを多くいただきました。

タッチギフトのデモ体験中の様子

来場者の中心は、自社店舗での活用を想定した小売チェーンや流通企業でした。タッチ時の挙動を初めて見たときの反応は、日本と比べて新鮮味があったように感じます。リアクションが大きいのは文化差もあるでしょうから、その分は割り引いて受け取っていますが、それを差し引いても、決済と混同するような反応はなく純粋に「これは何?」という驚きとして受け止められていたのが印象的でした。

タッチギフトとS4Adsの担当として、現地で見えたもの

ここからは、日本国内でこれらのプロダクトを日々セールス・運用している立場として、現地で感じたことを書き残しておきます。本記事でいちばんお伝えしたい部分でもあります。

日本とAPAC、「同じ課題」と「違う課題」

「NFCそのものではなく体験設計が勝負」という方向性は、日本とAPACに共通する答えでした。違うのは、その課題に取り組んでいるフェーズです。

観点 日本 APAC(アジア中心)
NFC自体への理解 既知 既知(決済・交通ICで日常化)
中心テーマ 体験設計の高度化 体験NFCというユースケース自体の新規性
課題のフェーズ 二歩目(体験を設計しきれていない) 一歩目(用途の発見)
飲み込みの速さ 速い 速い(決済タッチが日常化)

日本のお客様と話していると、最近は「設置した先で、どんな体験を載せるか」が会話の中心になります。一方APACの方々は、まだ「NFCを店頭体験のトリガーにする発想そのもの」を新鮮に受け止めていました。フェーズは違うのですが、目指している方向は同じです。だからこそ、海外の方との会話も驚くほど噛み合い、「やっぱり最終的には体験設計だよね」というところにどの国の方とも自然に着地できました。

これは店頭側(タッチギフト)から見た景色ですが、EC側(S4Ads)にも同じ構造があると感じました。日本ではすでに大手流通が自社ECサイトのリテールメディア化に着手しはじめている一方、APACの会場で語られていたのは「AIに発見されるECをどう設計するか」というさらに一段先のテーマでした。

フェーズの違いはあれど、店頭とECのどちらにおいても”次に何を載せ、どう発見されるのか”が問われているという意味では、共通の景色を見ている印象です。

現地で意外だったこと、新鮮だったこと

実は、現地に行く前、私は次のような仮説を持っていました。

「電子決済が日常化した土壌では、”店内でわざわざスマホを開かせる”というタッチギフトの起点ニーズがズレてしまうのではないか?」

ところが、現地で来場者の動きを見ていて、ほぼ逆だと気づきました。

スマホをかざす動作が日常化しているからこそ、物理的なタッチに対する抵抗が極めて低いのです。決済タッチが普及していることは、タッチギフトの起点ニーズを”奪う”ものではなく、むしろ「”準備運動”を済ませてくれている」ことを意味していました。

現地に行く前の仮説 実際に見えた景色
電子決済が日常化 → スマホを開かせる起点がズレるはず 決済タッチが日常化 → 物理タッチへの抵抗ゼロ + 体験NFCは新鮮、の二段プラス

「タッチの素地はある、しかし体験NFCという用途はまだ新鮮」というギャップこそ、理解の速さと驚きを同時に生んでいた、というのが私なりの読み解きです。

補足しておくと、アジアのNFCは決済や交通ICが主用途で、QRコード決済の浸透も特に進んでいます。一方で、店頭の無給電NFCタグで”体験”を起こす用途は、決済の影に隠れてまだ一般化していません。だからこそ、タッチギフトには入り込む余白があるとも言えます。

もう1つ、S4Ads側で意外だったことを挙げておきます。「AIに発見される」という最適化テーマが、想像していたよりはるかに具体的な事業投資の論点として議論されていたことでした。AEO(Answer Engine Optimization)や商品データの整備は、検索順位の延長線上ではなく「AIに正しく選ばれる」ための新しい競争軸として、すでに各社の事業のなかで動き始めている。その温度感を現地で直に感じられたのは収穫の1つでした(詳しくは後述します)。

Supershipが次に取り組むべきことは何か?

海外の反応が想定よりも良かったとはいえ、すぐに海外展開するという話にはなりません。手応えのあった会話はありましたが、その先のビジネスをどう動かすかは、まずは日本国内で次の景色を作ってから持ち出すべきだと考えています。今回はあくまで、APACの空気を肌で浴びて持ち帰ること、それ自体に意味のある出張でした。

そのうえで、タッチギフトの進化方向は大きく2つ見えてきました。

① データ計測・収益化の方向

NRFで繰り返し語られていたのは、「店舗のデジタル化は、もう”省人化”の文脈だけでは語れない」というメッセージでした。

店舗を、効果測定と収益化が可能なアセットへと転換していく。この潮流に対して、タッチギフトはデータ計測と収益化の両面で、まだまだアジャストの余地があります。NFC什器のタッチログは「これまで見えなかった来店データ」そのものですから、そこから先のマネタイズ設計まで含めて提案できる状態を作るのが、次の一手だと考えています。

② Agent AIとの連動の方向

来店タイミングで接点を作るというタッチギフトの本質を考えると、Agent AIとの連動は、遅かれ早かれ向き合う論点になります。

来店の文脈をAIエージェントが解釈し、顧客に最適なオファーをタッチ経由で返す。そういう体験設計が、店頭の顧客体験を一段押し上げる手段になり得ます。今回のNRF APACで語られていた「Autonomous Enterprise」の世界観に、店頭体験を接続していく筋道です。

EC内検索・リテールメディア(S4Ads視点)の今後

ここで、S4Ads側の話にもあらためて触れさせてください。

NRFでの議論を踏まえると、EC側の主役にも大きな構造変化が起きつつあります。EC内検索が、これまでの「人がキーワードを打つ」前提から、「AIエージェントが代わりに発見する」前提へと移っていく流れです。検索連動型の広告やレコメンドの”最適化の相手”が、人からAIに変わる。このインパクトは、想像以上に大きいと感じました。

NRFの場で印象的だったポイントを並べます。

  • 検索の主体が人からAIへ:海外の大手AIプラットフォーマーや決済プラットフォーマーが、「AIが顧客そのものになる」(チャット画面内で発見・決定・購入が完結する)方向性に触れていました。
  • 「AIに発見される」最適化が鍵:商品データ整備とAEO(Answer Engine Optimization)的な最適化が、今後の競争軸になっていきます。
  • S4Adsの位置づけ:リテールメディアを自社で持つ大手流通企業が、AI×コマースメディアの掛け合わせで事業成長を打ち出しています。S4Adsの「ECサイトのリテールメディア化支援」は、この潮流の日本版として位置づけられるはずです。

別々のプロダクトに見えますが、タッチギフト(店頭)とS4Ads(EC)は、「AI時代の発見と収益化」という同じ大きな流れの中にあります。今回の現地参加を通じて、その確信を強めて帰国しました。

Supershipが次に向かう先

最後に、現地で見えてきた方向性を整理しておきます。

日本と海外でフェーズの違いはあるものの、「NFCの技術そのものではなく体験設計が勝負」という方向性は共通でした。タッチギフトは「測定可能なアセット化」と「Agent AI連動」へ、S4Adsは「AIに発見される」最適化へと、それぞれ進化させていく。店頭とECの両方で、潮流に対する位置取りは一致しています。

  • 店頭側(タッチギフト):体験設計を起点に、データ計測・収益化/Agent AI連動の方向へ進化
  • EC側(S4Ads):人ではなくAIに発見される最適化(AEO的視点)への拡張
  • 共通の軸:AI時代の「発見」と「収益化」を、同じ設計図のなかに置き直す

株主であるKDDI・電通グループとともにAPACのリテール業界の最前線に立ち、日本発の取り組みを発信できたことは、大きな意味のある経験でした。

一方で、いま目を向けるべき場所は、まずは日本国内でこの潮流に応える”次の景色”を作り切ることだとも、改めて思いました。


NRF APAC 2026で見えてきた、APACリテール業界の潮流をもっと知りたい方へ。

本記事ではタッチギフトとS4Adsを軸に、現地で感じた所感をお伝えしました。Supershipではこれと別に、NRF APAC 2026の取材内容を業界トレンドレポートとして整理したホワイトペーパー『NRF APAC 2026 に見るリテール業界トレンド』を作成しています。

「Agentic AI(自律型AI)への移行」「データ収集から意思決定・実行へ」「AI検索時代の発見性」「店舗のコネクテッド化」といった4つの潮流を、セッション・出展社・市場全体の3つの視点から整理しています。本記事では触れきれなかった業界全体の構造変化を、一気に押さえていただける一本です。

下記より無料でダウンロードいただけますので、ご興味のある方はぜひお手元に置いてご覧ください。


関連リンク

菊地良介(Supership データソリューション事業領域 リテールメディアセールス&マーケティング部 リテールメディアパートナー1G GL)
サイバー・コミュニケーションズにてデジタル広告のメディアプランニング・コンサルティングに携わったのち、チームラボでの開発・PMO業務を経て、2024年Supershipへ入社。小売・流通向けのリテールメディア導入支援営業を経て、現在はSupership Touch Gift(タッチギフト)とS4シリーズの展開を担うリテールメディアパートナー1GでGL(グループリーダー)を務める。
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