One to Oneマーケティングはなぜ実現しないのか。AIに任せる施策と、人が持つ戦略の分け方

コラム

One to Oneマーケティングはなぜ実現しないのか。AIに任せる施策と、人が持つ戦略の分け方

一人ひとりへの対応を目指しても、配信が集団単位にとどまる理由

データ基盤を整え、MA(マーケティングオートメーション)ツールを導入し、メッセージを出し分けるシナリオも用意している。それでも実際に顧客に届くメッセージは、属性や行動履歴でまとめた顧客グループ、いわゆる「セグメント」単位のものになってしまう。One to Oneマーケティングやハイパーパーソナライゼーションに取り組むマーケティング責任者の方から、こうした悩みをよく伺います。

私は、パーソナライゼーションの目的は、出し分けを細かくすること自体ではないと考えています。目的は、顧客一人ひとりの中に、その商品を選ぶ意味を育てることです。ただ、この話をすると「理屈は分かるが、それを一人ひとりにやる人手はない」という声がよく返ってきます。何を、いつ、どの接点で伝えるか。これを顧客の数だけ判断し続けるのは、確かに人の手だけでは追いつきません。

そこで必要になるのが、人とAIの役割分担です。日々の施策の判断はAIに任せます。一方で、ブランドとして大切にすることや、誰にどのような価値を届けたいかという戦略は人が担います。本記事では、この分担の考え方と、運用へのつなげ方を整理します。

一人ひとりへの対応を阻む、設計と検証の負担

顧客の属性や行動履歴ごとに配信条件を決め、条件に合う人へ用意したメッセージを届ける。こうした方式を「ルールベース」と呼びます。配信をツールで自動化していても、「どの条件で、何を届けるか」を人が設計し、結果を見て直す運用では、対応を細かくするほど作業が増えます。課題は担当者の力量ではなく、人が設計し、見直し続けられる量にあります。

一つ目の限界は、対応の細かさ、つまり「粒度」です。顧客が数十万人、数百万人になれば、一人ずつ判断することは難しくなります。そのため、セグメントごとの平均的な顧客像に向けて施策を届けることになります。同じセグメントの人がまったく違う理由で迷っていても、届くメッセージは同じです。

二つ目は、検証回数です。シナリオを作り、配信を設定し、A/Bテストの結果を待ってから次の案に進む。こうした運用では、試せる仮説の数に限りがあります。作り手の考えを伝えるべきか、利用者の声を紹介すべきか。顧客ごとの違いを確かめたくても、十分に試せません。

集団単位の施策運用と、対応の細かさ・検証回数の限界

この負担を減らす選択肢が、日々の施策の判断や試行、反応の記録をAIに任せることです。ただし、判断を速く、細かくするだけでは足りません。その前に、AIに何を目標として判断させるかを決めておく必要があります。

AIで施策を速く回しても、LTVが伸びるとは限らない

CVR(コンバージョン率)だけを目標に施策を改善しても、継続利用やLTV(顧客生涯価値)の向上につながるとは限りません。「離脱したらクーポンを送る」という対応をAIがより速く、細かく実行できたとしても、それだけで顧客との関係が深まるとはいえないのです。

目先の購入を促すことと、その商品を選ぶ意味を育てることは、分けて考える必要があります。だからこそ、AIに運用を任せる前に、何を成果とし、ブランドとして何を大切にするのかを人が決めておくことが重要です。

AIに任せる日々の判断と、人が担う三つのこと

私は、人が担うべきことを三つに分けて考えています。

第一は、ブランドとして大切にすることと、伝えないことを決めることです。伝え方を変える際にも判断のよりどころになるよう、その考え方を明確にしておきます。

第二は、誰に、どのような価値を届けたいのかという仮説を立てることです。顧客のどのような関心や価値観に、ブランドのどの価値が結びつくと考えるのか。「誰と、どんな意味でつながりたいのか」を人が示します。

第三は、何を成果とするかを決めることです。獲得時のCVRだけでなく、顧客単位の継続利用やLTVも含めて評価します。

AIに任せるのは、この方針の中での日々の判断です。一人ひとりに、どの内容を、いつ、どの接点で届けるかを選びます。そのうえで施策を試し、どの伝え方にどのような反応があったかを記録します。

人が戦略を定め、AIが一人ひとりへの施策の判断・試行・記録を担う役割分担

ここでAIに任せるのは、相手に合わせてブランドそのものを変えることではありません。ブランドが大切にすることは変えず、その価値のどの側面を、どう伝えるかを変えるのです。人が守る方針と、AIが判断してよい範囲を分ける。そうすることで、一人ひとりへの対応とブランドとしての一貫性を両立させます。

AIの結果を、顧客理解と戦略の見直しに生かす

AIによる試行で得られた反応は、戦略の「正解」ではなく、顧客を理解するための手がかりです。作り手の考えに反応した人がいても、その考えのどの部分に共感したのかまでは分かりません。どのような関心や迷いがありそうかを読み取り、次に確かめる仮説を立てるのは、人の役割です。

必要なのは、反応がよかったメッセージを増やすことだけではありません。「誰と、どんな意味でつながり、どのような体験を届けるか」という戦略そのものを、得られた反応に照らして見直すことです。

AIの試行から得た顧客の反応を、人の顧客理解と戦略判断へ戻す循環

見直した方針をAIの運用に反映し、次の反応を確かめ、再び人が仮説を見直す。この往復をつくることに、判断を仕組みに委ねる意義があります。

運用の負担を減らして生まれた時間を、何に使うか

日々の施策の判断をAIに任せれば、マーケターは戦略を考える時間を確保しやすくなります。ここでいう戦略とは、配信タイトルやバナーの文言の調整ではありません。自社の商品は、顧客のどのような悩みや願いに応えているのか。顧客は、なぜその商品を選んでいるのか。ブランドとして、誰と、どのような関係を築いていきたいのか。AIの運用から得た反応を材料に、こうした問いをチームで考え、次の方針に反映します。

AIを活用する目的は、作業を減らすこと自体ではありません。顧客を理解し、商品が選ばれる意味を考える時間をつくることです。

まずは接点を一つ選び、人とAIの役割を決める

最初から大規模なシステム刷新を前提にする必要はありません。まずは取り組む顧客接点を一つ選びます。その接点でブランドとして守りたいこと、確かめたい仮説、成果を評価する指標を整理します。そのうえで、どの判断をAIに任せ、どの結果を人が確認して次の方針につなげるかを決めていきます。

次のような状態に心当たりがあれば、運用分担を見直すタイミングかもしれません。

  • MAツールを導入したものの、設定やシナリオの管理に追われている
  • 施策の微調整に時間を取られ、結果を戦略の見直しに生かせていない
  • One to Oneを目指しているが、セグメント単位の出し分けにとどまっている

Supershipは、現在お使いのデータ基盤や配信ツールを生かしながらご支援しています。人が定めた方針をAIが判断できる形に落とし込む設計から、日々の運用までが対象です。自社では何を人が担い、何をAIに任せるべきか、一度お話ししませんか。

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求人広告営業からキャリアをスタートし、新規事業の立ち上げに参画。マーケティング責任者として早期黒字化を実現。2018年のSupership参画以降は、ナショナルクライアント向けにデータドリブンなマーケティング戦略の立案から実行・評価までを一気通貫で支援。KDDIへの出向も経験し、事業企画や大規模なプロダクト開発まで、多角的なプロジェクトマネジメントと豊富な経験を有する。
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