プレイヤーが取るべきアクションは?〜JAA『デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言』解説記事 by Momentum
2019年11月26日、JAA(公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会)が『デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言』を発表しました。
内容としては、デジタル広告に関わる広告出稿企業として、業界の健全化および、具体的な課題の解決に向けて、ステークホルダーがとるべき基本的なアクションを「宣言」としてまとめたものです。
本稿は、アドバタイザー宣言の一部を解説し、宣言を受けた業界内での「アクション」をより促進できるように、モメンタムとしてアクションを明確化し、ご理解頂くことを目的にしています。
※この記事はモメンタムのnoteに掲載されたものを再構成したものです。
「アドバタイザー」が宣言する意味
まずは、用語を整理します。
以下は『アドバタイザー宣言』で用いられている定義となります。
メディア
デジタルコンテンツを制作し、提供する企業のことプラットフォーマー
情報通信サービスを提供する企業のこと。情報プラットフォームやコミュニケーションプラットフォームなどがこれに含まれる。エージェンシー
デジタル広告に関して、広告プランの提案をはじめ、アドバタイザーの代わりにメディアやプラットフォーマーへの出稿や管理を行う企業のこと。テクノロジー企業
デジタル広告の取引に関する情報通信技術を提供する企業のこと。DSP、SSP、DMPなどの企業がこれに含まれる。パートナー
上記「メディア」「プラットフォーマー」「テクノロジー企業」「エージェンシー」のすべてを含む、デジタル広告にかかわる企業のこと。
アドバタイザー宣言に記載があるのは上記の5つですが、ここではもう1つ加えます。
アドバタイザー 広告料を支払って、広告活動を企画、制作、依頼する企業または個人のこと。 |
いわゆる「広告主」と呼ばれる主体です。広告を出稿するのは企業だけではないため「個人」も付け加えています。
アドバタイザー宣言が掲げるパートナーシップ8大原則は下記のとおり。
1. アドフラウドへの断固たる対応
2. 厳格なブランドセーフティの担保
3. 高いビューアビリティの確保
4. 第三者によるメディアの検証と測定の推奨
5. サプライチェーンの透明化
6. ウォールドガーデンへの対応
7. データの透明性の向上
8. ユーザーエクスペリエンスの向上
本稿は、モメンタムが関わる1~4について解説しますが、先に、なぜこの宣言をメディアでもプラットフォーマーでもなく「アドバタイザー」が発表したのか?という意味について考えておきましょう。
2018年6月に、WFA(World Federation of Advertisers:世界広告主連盟)が「Global Media Charter」を発表しました。本稿で取り上げている「アドバタイザー宣言」の元になったもので、アドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティなどの課題に対して、広告主の立場から、デジタル広告に関わる企業に向けて発表した順守推奨の原則を示したものになります。
これに対し、国内のプラットフォーマーは共同で声明を発表しています。
ログリーなど9社、「ネット広告健全化に向けた共同声明」を発表 https://webtan.impress.co.jp/n/2019/07/04/33252 |
大手プラットフォーマーのYahoo!も漫画村の問題が顕在化した後、「広告品質のダイヤモンド」と題し、グローバルスタンダード基準のポリシーを設けています。
また、大手エージェンシーの電通グループは以前より、モメンタムを含むアドベリフィケーションのパートナーと共に「アドベリフィケーション推進協議会」を立ち上げ、同じ課題についての取り組みを本格化しています。
こうしたエージェンシーやプラットフォーマーの取り組みに続いて発表されたのが今回の「アドバタイザー宣言」ですが、この宣言が他と異なるのは、他のプレイヤーも含めた「パートナーシップ8大原則」を設定している点です。そのすべての項目に、「アドバタイザーが取るべき姿勢」だけではなく、「パートナーに求めること」という記載があります。
こうした宣言はアドバタイザーでなくてはできません。なぜなら、アドバタイザーは他のプレイヤーに対し「アドベリフィケーションの取り組みをしていないのならば広告は出しません」と言える強みを持っているからです。逆に、アドベリに適切な投資を行ってきたエージェンシーやプラットフォーマーたちにとっては、その対応が評価され、より多くのオポチュニティを得られる可能性があります。
また、このアドバタイザー宣言は、デジタル広告業界が抱える課題への取り組みが進まない原因であった「デジタル広告の配信の仕組み複雑すぎ≒プレイヤー多すぎ問題」への回答でもあります。
つまり、「誰がアドベリの取り組みを行うのか?」という問いに対して、アドバタイザーが「私たちがルールを作ったので、みんなでやりましょう」という指針を示した形で、ここにこそアドバタイザーが宣言する意味があります。この宣言の最後で、8大原則とは別に、「8大原則を実現するために、アドバタイザーが持つべき倫理観」が掲げられています。
倫理観に基づく責任の一つに、出稿した広告の行き先への責任がある。アドフラウドやブランドセーフティといった社会的に不適切なものにつながる動きは無いかを自らに問いながら、広告活動を行わなければならない。また問題があった場合は、後回しせずに対応を行うべきである。
そしてもう一つに、広告の社会環境に対する影響への責任がある。例えばフェイク広告やステルスマーケティングは、アドバタイザーの社会的な信頼を失い、生活者の正しく情報を知る権利を無視し傷つけ、業界の健全な発展を阻害しかねない。広告の未来へのその大きな影響を、デジタル広告にかかわる一人一人も担っていることを自覚するべきである。
この倫理観についての記載は、WFAの発表にはないJAA独自のものです。
デジタル広告市場は年々大きくなり、社会に与える影響も比例して大きくなっています。もちろんネガティブな面もあり、例えばアドフラウドのように顕在化することもあれば、水面下で生活者からの信頼を損ねていることもあるかもしれません。このような状況に対し、アドバタイザー自身が倫理観をもって課題に取り組むことが、ここでは宣言されています。
途中からアドベリフィケーションに限定して話が進んでしまいましたが、アドバタイザー宣言自体はアドベリフィケーションに限定された話ではありませんので、ご注意ください。
長くなりましたが、前段はここまでです。
「アドバタイザー宣言」は何を求めているのか
ここからは、パートナーシップ8大原則の1~4について解説していきます。
共通するポイントは、大きくまとめると3つです。
「各社、自社の現状を把握し、リスク情報を開示しましょう」
今、どれだけリスクを抱えているか把握していますか?関係企業に丸投げしていませんか?曖昧なまま取引していませんか?
リスクを把握しないままだと、後々大きな痛手になるかもしれません。
「アドバタイザーがモニタリングできるようにしましょう」
エージェンシーやテクノロジー企業は、最上流のアドバタイザーまで情報共有ができていますか?
「上記2点を満たすパートナーと取引するようにしましょう」
1. アドフラウドへの断固たる対応
アドフラウド:自動化プログラム(bot)などによって無効なインプレッションやクリックを発生させ、アドバタイザーから不当に広告収入を得る悪質な行為のこと。
・アドフラウドはアドバタイザーの投資を搾取する事象であり、本来あってはならないもので、断固とした対応が必要である。アドバタイザーはこの現状を認識し、しかるべき対策を取ることを求めている。アドフラウドへの対策は、将来の日本の広告業界を健全に保つためにも、デジタル広告のエコシステムを機能させる一環として、最重要事項の一つである。
アドフラウドは「広告詐欺」と言われ、アドバタイザーから広告収入をかすめ取る詐欺の手法です。WFAの発表では、2025年までに、アドフラウドは反社会的勢力の2番目に大きい収入源になると言われています(Hewlett Packard Enterprises,”The Business of Hacking”, May 2016)。
ひとえにアドフラウドといっても、様々な手法があり、日々進化しています。
2つだけ紹介いたします。
1. Domain Spoofing / Falsely Represented(取引情報の偽装)
「ドメインスプーフィング」とは、悪質なサイト運営者などが、故意に広告掲載先のドメインを偽ることで不正に広告収益を得ようとする、”なりすまし”による広告詐欺の手口の一つで、モメンタムでは2018年4月に巨大漫画違法ストリーミングサイトにおいてこの手法を利用したアドフラウドを検知し、注意喚起をさせていただきました。TVや新聞・雑誌でもこの違法サイトについての特集が組まれていたので記憶に新しい方もいらっしゃるかと思います。
2. Imp/Click Bot, Retargeting Fraud(プログラムされたブラウザによる広告閲覧)
プログラムにより操作したブラウザにより、インプレッションやクリックを生み出す手法です。
インプレッションのみを大量に発生させるもの、クリックを一定間隔で発生させるもの、リターゲティング広告を引き込むように一度ブランドページに訪れるもの、挙動は多岐にわたります。Botが実行される環境についても、Data Center上のものもいれば、マルウェアに感染し支配権を握られた個人用端末上のものもあり同様に多岐にわたります。
この他、Cookie Stuffing(不正な成果の獲得のためのクッキー汚染)、Sourced Traffic(第三者からのトラフィック獲得)など、こちらの記事にて紹介しております。アドフラウドについてより詳しく知りたい方はご覧ください。
【パートナーに求めること】
・パートナーは、自社が提供するデジタル広告枠におけるアドフラウドの現状を把握すべきである。
計測方法や計測ツールによって、アドフラウド率(総インプレッション数に含まれるアドフラウド)は異なります。アドベリフィケーションサービスを提供するベンダーの間でも、この数値には開きがありますが、モメンタムが2019年6月に発表した国内のアドフラウド率のベンチマークは「8.6%~19.2%」となっています。
また(もろもろ注釈はつきますが)、IASは1.6%、CHEQは4~10%と発表しています。
※アドフラウド率の出典: Momentum「日本のデジタル広告のリスク」 (https://www.m0mentum.co.jp/news/ja/2019-06-04-whitepaper.html) IAS「メディアクオリティレポート 2019年上半期版」 (https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000014440.html) CHEQ「次世代アドテクノロジー企業CHEQ 2019年、日本におけるオンライン広告詐欺の被害総額は、少なくとも680億円に上ると予測」 (https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000035654.html) |
計測の方法については、パートナーの立場によって変化いたします。また、上記のとおり、検証ソリューションによっても結果が異なります。モメンタムはアドバタイザーも含め、各パートナー様とのお取り組みの実績がありますので、調査したい方はぜひお問合せください。
また、この宣言では、アドフラウドが検知された場合の補償についても言及されています。
【パートナーに求めること】
・パートナーは、無効なトラフィックに関連していることが判明した場合、アドバタイザーの投資を速やかに払い戻す必要がある。また、そのプロセスは可能な限り合理的かつシンプルであるべきである。【アドバタイザーが取るべき姿勢】
・アドフラウドの対策と補償のプロセスは、事前に合意する。
最近ではAmazonが、自社DSPで検知されたアドフラウドに関して、過去の事例までさかのぼり全額を返金すると発表しました。パートナーはまず、自社の提供する広告枠のリスクの把握と、返金に関するプロセスの整備をする必要があるかもしれません。
2. 厳格なブランドセーフティの担保
ブランドセーフティ:ブランドを毀損する不適切なページやコンテンツに広告が表示されるリスクから、安全性を確保する取り組みのこと。
・アドバタイザーに対してブランド毀損を及ぼす事象や、ブランドセーフティを妨げる脅威から、ブランドを守らなければならない。
この項目でパートナーに求められているのは、メディアやプラットフォーマーは自社コンテンツへの責任を持ち、ブランドセーフティを担保しましょう、ということです。同時にアドバタイザーにおいても姿勢の表明が重要です。
【アドバタイザーが取るべき姿勢】
・子どもに悪影響を与えたり社会を混乱させたり、怒りや憎しみを助長したりするメディアやプラットフ ォーマーへは投資しない。・広告が知的財産権法を誤用したり著作権を侵害したりするWebサイトの活動資金となっている可能性や、広告がフェイクニュースや偽情報を発信するWebサイトの収益源となっている可能性について認識する。
日本のデジタル広告市場では、CPAを最重要視し、どのサイトのどの広告枠に出ているかはあまり重要視してこなかった歴史があります。極端に言ってしまうと「たとえ違法サイトであっても、CPAが良ければいい」という態度です。
しかし今後は、著作権を侵害するコンテンツや、ヘイト記事に対しては反対の立場を取る、ということです。
【アドバタイザーが取るべき姿勢】
・自社の目標達成や利益追求のための不適切なコンテンツへの広告出稿には反対の立場を取り、社会に悪影響を及ぼす活動につながる広告出稿は行わない。・不適切なコンテンツへの広告出稿が確認された場合は、パートナーと連携して、広告の即時取り下げを行う。
1点注釈を加えておくと、ここでは「ブランドセーフティが担保された広告枠はCPAが高い」という共通認識があります。しかし、必ずしも「ブランドを毀損するような粗悪な広告枠はCPAが安い≒ブランドセーフティが担保された広告枠はCPAが高い」わけではありません。
弊社がエージェンシー向けに提供している「HYTRA DASHBOARD」というブラックリスト提供サービスについて、弊社の認定プログラムである「ACP(Agency Certification Program)」を取得し、積極的にアドベリフィケーションにコミットされているADK様に効果検証を行っていただきました。それによると、以下のような結果が出ています。
ブラックリストと一致するURLのCPAよりも、一致しないブランドセーフなURLのCPAの方が11~15%も低かったんです。これは、ブラックリストを導入しても必ずしもパフォーマンスが下がるわけではなく、マーケティングROIが良くなる可能性もあることを示唆するものだと考えています。
出典:「大きな差が開き始めているデジタル広告の運用品質 大規模ブラックリスト運用で広告パフォーマンス改善も」(Markezine)
https://markezine.jp/article/detail/31921
つまり「ブランドセーフなURLのほうが、広告パフォーマンスが高かった」ということです。また、CPAだけではなく、広告を閲覧したユーザーの好感度にも影響を与えています。
高品質なコンテンツとともに広告が表示された時、被験者はその広告を低品質なコンテンツ環境で閲覧した時と比較して74%より好ましいと感じていることがわかりました。さらに、質の低いコンテンツに表示された広告を閲覧した際には好感度の向上に寄与しないどころか、好感度が下がるという結果になりました。
出典:「高品質なコンテンツ環境に配信された広告は 好感度が74%アップすることが判明!」(IAS プレスリリース)
https://integralads.com/jp/news/02190726/
高品質な面での広告配信は、認知度やエンゲージメントにもポジティブな効果を発揮することが報告されています。
また、逆に、低品質な広告環境でのブランド広告に対して、消費者の34%が「好感度が下がる」、65%が「そのブランドの使用を取り止める可能性がある」と回答しています。(IAS プレスリリース「Web広告が低品質なコンテンツ環境に表示された場合、 65%が『ブランドの使用を取り止める』」より)
高品質な広告環境は、ブランドセーフティだけではなく、広告効果にも影響を与えています。高品質な広告環境の実現のためには、もちろんパートナーとの連携が欠かせません。意図しないにせよ、何の対策もしておらず低品質な広告環境を提供してしまうパートナーは、ブランドセーフティと広告効果の両面で価値提供できていないことになるため、取引の優先順位が下がってしまう恐れがあります。
3. 高いビューアビリティの確保
ビューアビリティ:生活者のデバイスに配信された広告が視認可能な状態にあること。
・日本におけるビューアビリティのレベルはグローバルに比べて低い水準にあり、インプレッションを重視する広告活動の場合などにおいて、ビューアビリティは保証されるべきである。
ビューアビリティの定義を共有しておきましょう。
下記は、MRC(Media Rating Council)とIAB(Interactive Advertising Bureau)が定めたガイドラインです。
ビューアブルインプレッション 静止画:広告ピクセルの50%が、スクリーンに1秒以上表示された広告インプレッション 動画:広告ピクセルの50%が、スクリーンに2秒以上表示された広告インプレッション |
「ビューアビリティ(%)=ビューアブルインプレッション÷広告掲載インプレッション」となります。現在のビューアビリティに関する議論はこの基準に従っていると思います。
さて、「日本におけるビューアビリティのレベルはグローバルに比べて低い水準」とのことですが、どれくらい低いのでしょうか。
IASの調査によると、日本は「42.3%」、海外は「69.2%」となっています。(※いずれもデスクトップ ディスプレイの数値)
つまり、日本では、表示された広告の58%はビューアブルなインプレッションではないということになります。なかなかショッキングな数値ではないでしょうか。インプレッション課金(CPM)の場合、6割近い費用を無駄にしていることになります。言い換えれば、アドバタイザーは、ユーザーが閲覧していない可能性のある広告にもコストをかけているということです。
最近では、CPMに代わり、vCPMという課金形態も増えてきました。ビューアブルインプレッションのみに課金するという仕組みです。ただ、この宣言にもあるとおり、アドバタイザーは「ビューアビリティの高い基準によって、広告の在庫やリーチの減少など、潜在的な影響をもたらす可能性について理解する」必要があります。ビューアビリティの基準が高すぎると、そもそものインプレッション数が少なくなってしまいます。
ここが、「いまだ議論の余地がある」部分です。アドバタイザーとパートナー各社が議論し、キャンペーンの目的などによって柔軟に妥協点を探っていく必要があります。まずは、各社が、自社の広告のビューアビリティを公開し、恒常的に改善していく意思を持つことが大切です。
4. 第三者によるメディアの検証と測定の推奨
・アドバタイザーはメディア自らが行う評価を受け入れておらず、提供されるデータは、デジタルメディアにおいても第三者による検証や測定によるものであるべきである。
【パートナーに求めること】
・パートナーは、下記のアドバタイザーが求める広告枠の条件を理解する必要がある。
①アドフラウドが無い
②ブランドセーフティが約束されている
③ビューアブルである
④ターゲットに届く
アドバタイザーが求める条件がストレートに書かれています。上記の環境を実現するために、各パートナー間で協力していく必要がありそうです。
- まとめ
- アドバタイザー宣言に示されている世界を実現するためには、メディア、プラットフォーマー、テクノロジー企業は第三者機関と連携して情報を開示し、アドバタイザー、エージェンシーは自らの現状を把握する、といったデジタルエコシステム全体でのアクションが非常に重要になります。
モメンタムは第三者機関としてデジタルエコシステムに関わる皆様に対し、HYTRAというブランドの元にサービスを展開しており、特に国内のエージェンシーやプラットフォーマーへの実績は豊富にございます。その中で得られたノウハウなども積極的に活用して、アドベリフィケーションに関する情報提供から、導入検討の指標のお手伝い、目標設定など、足元からお手伝いできればと考えています。気軽にご相談ください。