“世界一のライフデータベース&ソリューション・カンパニー”を目指して 〜LIFULLのデータ・ドリブン・マーケティング戦略〜
6月26日に開催した、Supership主催のセミナー「Data Driven meets Marketing 〜マーケティングゴールに到達するためのデータ活用戦略と実践〜」。
消費者の行動がデジタルにシフトし、マーケティングを進める上ではデータの「収集」のみならず「活用」も不可欠になっていく中で、データを活用したマーケティングを実践するブランド企業をお迎えし、マーケターに向けて最新のデータマーケティング事例などをご紹介させていただきました。
この記事では、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」などを運営する株式会社LIFULLのCDO、野口 真史様をお迎えした第2部のレポートをお届けします。
「物件データ」から「ライフデータ」へ
LIFULLの運営する国内最大規模の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」(以下「HOME’S」)には、およそ700万件もの物件情報が掲載されています。
不動産業界における「データ」といえば「物件データ」を指すケースが多く、“世の中にある物件情報をいかに集めてデータベースを拡充していくか”という点や、“世の中に出ていない情報をいかに集めるか”といった点が重要視されていた、と野口様は語ります。
そこから徐々に「データ」という言葉が指す領域は広がっていき、エンドユーザーの年齢・性別・趣味趣向などの属性や進学、結婚などのライフイベントなども含め、ユーザーに関するあらゆるデータを「ライフデータ」として位置付け、「ライフデータ」を活用した新たな価値提供を行なっていく方針にシフトしていったといいます。
そして昨年4月、それまでの「ネクスト」から「LIFULL」へと社名を変更したのをきっかけに、「世界一のライフデータベース&ソリューション・カンパニーへ」という新たな事業方針が策定され、データを活用したデジタルマーケティングの推進やサービスの成長による会社事業の拡大に取り組んでいるそうです。
LIFULL様が取り組むデータ・ドリブン・マーケティング
LIFULLのCDOを務めている野口様が管掌されている「グループデータ戦略部」は、大きく4つのユニットに分かれています。
・デジタルマーケティングユニット
・CRMユニット
・データビジネスユニット
・データ戦略ユニット
「デジタルマーケティングユニット」は、主に集客やプロモーションの部分を担う組織です。
WEB広告のみならず、テレビCMやOOH(屋外広告など)も含めた分析を行う「マーケティング・ミックス・モデリング」=MMMという手法を用い、ダイレクトレスポンス広告とブランディング広告の比率も考慮した広告費全体の最適化を行っています。
野口様「不動産業界では、3月に大きな山があったりと、いわゆる『季節トレンド』が大きくあります。その季節トレンドの関係や、投下した広告の量、そして実際に我々のWEBサイト上で起こるコンバージョンの状況と、それぞれどういった形で関連するのかを数式化し、それにより“事業全体でこれくらいの売上高を目指すのであれば広告宣伝費はこれくらい必要で、その時のブランディング系とレスポンス系の比率はこれくらい”という答えを出してくれるシミュレーターのようなものを開発して運用しています。
このシミュレーターはまだチューニングを重ねている最中ですが、±5%くらいの精度で予測できるようになってきているので、ある程度は事業判断や投資判断を行えるところまで来ているのではないかと思います」
「CRMユニット」は、集客したユーザーをナーチャリング(育成)し、物件を成約したユーザーに引っ越しサービスもあわせて利用してもらうなどして、顧客のLTVを高めることをミッションとしています。
このユニットでは、WEBのみならずコールセンターや実店舗も活用した「オムニチャネル戦略」をとっています。
野口様「全てのコンタクトポイントで収集したデータを一つのデータベースに集約・統合することで、サービス改善を行っております。例えば、ユーザーが過去にサイトで物件を検索したときのデータを使ってサイト訪問時に最適な物件を情報を予め表示しておく、といったイメージです」
「データビジネスユニット」は、HOME’Sで蓄積したデータを使って、HOME’S以外の部分でマネタイズすることをミッションとしたユニットで、不動産業界に特化したDMP「NabiSTAR」を手がけています。
野口様「これはHOME’Sに限った話ではないと思いますが、せっかく広告費をかけてサイトにユーザーさんを呼んできても、そのうちコンバージョンにつながるのは1%程度で、99%は離脱してしまうという課題がありました。これをどうにか別の形でマネタイズできないか?ということで生み出されたのが『NabiSTAR』です。
このDMPを使うことで、不動産会社さんは、自社の保有するデータに加え、HOME’Sの保有するデータを活用した精度の高いターゲティング広告が配信可能となります。
また、広告配信だけでなく、(ユーザーの同意を得た上で)サイト上での検索データを提供することにより、サービス改善の用途でのご利用も可能です」
これら3つのユニットを支えるのが「データ戦略ユニット」です。データ収集・統合の方法や、ユーザーのインサイトを可視化する方法を検討し、事業全体のマーケティングをいかに効率的に行うか、という部分を担っているとのことです。
「道行く人々」へアプローチするために
野口様「競合を含めた様々な店舗が連なるメインストリートに人がたくさん歩いているとして、『会社や商品の名前や看板の認知度を上げる』のがブランディング広告にあたります。
自社の店舗から遠いところを歩いている人に店舗を訪れてもらうことは簡単ではありませんが、名前を認知されることにより、たとえ手前に別の業者の店舗があり、自社の店舗はその奥にあったとしても、看板を見てその存在に気づいてもらえる可能性が高くなります。そのうえで、『HOME’Sが好きだ』といったように、利用意向も高めることができれば、例え遠くとも来店してくれるかもしれません」
野口様「『店舗の近くを歩いている人たちにチラシを配る』のが、レスポンス型広告にあたります。
日本に住む世帯のうち、年間では10世帯に1世帯程度しか引っ越しをしないというデータがあります。やみくもにチラシを配っていてもニーズがなければその広告費は無駄になってしまいますが、ニーズを持つ見込み顧客に向けてチラシを配る=広告を配信するため、データを用いた精度の高いターゲティングに取り組んでいます」
この分野において、Supershipは、「住み替え予兆モデル」を通して協力を進めています。
SupershipのDMPにあるログデータと、HOME’Sにあるユーザーの行動データを掛け合わせて分析することで、“こういった行動をした人は、今後引っ越しする可能性が高い”というモデルを構築します。
このモデルを活用することで、住み替えの予定がある人に向け、競合よりも高い広告単価で入札することで早くアプローチするなど、質の高いユーザーを確実に集客することを目指します。
また、広告のクリエイティブや、ユーザーに訴求すべきメッセージについて、データ・ドリブンにしていくために「パーセプションフロー・モデル」の活用も取り組みを進めています。
※音部大輔氏考案のパーセプションフロー・モデルについてはこちら の記事にて解説しております
データ戦略で重要なのは「増やす」「高める」「使う」
最後に野口様はまとめとして、データ戦略で重要なのは「増やす」「高める」「使う」の3点である、と話しました。
野口様「まず『増やす』というのは、データベースにどういったデータを貯めていくかということです。例えばユーザーのデータベースであれば、ユーザーの数を増やしていくことももちろんですが、それだけではなく、そのユーザーひとり一人がどういった属性を持つのかという詳細な情報も増やして蓄積していくことが重要ではないかと考えています。
次に、増やしたデータを活用する前の準備として質を『高める』ことも必要だと考えています。増やしたデータの中身を分析し、どういったユーザーがいて、どういったアプローチをしたら反響が跳ね返ってくるのか、といったような分析をはじめ、集めたデータを他のマーケティングオートメーションなどのツールにつなぐための整理などの仕組みづくりを含めて、質を『高める』ステップは無視できないポイントではないかと思います。
この『増やす』と『高める』をしっかりとやっていけば、あとは『使う』だけです。データの活用により成果を出すことができれば、さらにユーザーを集めやすくなりますので、そこで集めたデータの質を高めてまた使って…といった形で、データ活用のサイクルがぐるぐる回っていくと、データ戦略全体として大きく成長していけるのではないかと考えています。
私自身もまだまだ勉強中ではあるのですが、こういった考え方でそれぞれに『増やす施策は何があるだろう』『高めるためにはどうすればいいか』という風にアイデアを出したり、『増やす』『高める』『使う』をそれぞれ分解し、施策、タスクといった形に落とし込んで実行し、半年〜1年単位できちんと振り返ることで、日々会社としてのデータ活用を成長させていければと思います」
“世界一のライフデータベース&ソリューション・カンパニー”を目指すLIFULLを、Supershipでは今後もデータテクノロジーを活用して支援してまいります。