宣伝会議サミット2020セミナー動画&資料DL 『社会的コンテキストを無視したデータドリブンマーケティングは受け入れられない』マーケティングの真髄は消費者理解にあり!
本記事は、宣伝会議サミット2020のセミナーに登壇したDATUM STUDIO マーケティング戦略部 部長 市川 真樹の講演のレポートです。簡単な登録フォームに入力いただけると講演のアーカイブ動画の視聴ならびに登壇資料がダウンロードいただけます。
SupershipグループのDATUM STUDIOは、ブランドマーケティングのプランニングと実行を手がける株式会社エフアイシーシー(以下、FICC)と協業開始
※詳細は以下のプレスリリースをご参照ください。
プレスリリース:DATUM STUDIO、FICCとデータマーケティングコンサルティングサービスの提供開始 〜データを通じた消費者理解に基づく一気通貫のマーケティング~
宣伝会議サミット2020にDATUM STUDIO マーケティング戦略部 部長の市川 真樹 登壇
2020年11月10日(火)・11日(水)に開催された「宣伝会議サミット2020」にて、DATUM STUDIO マーケティング戦略部 部長の市川 真樹と、FICCのメディア・プロモーション事業部 事業部長 稲葉 優一郎 氏が講演を行いました。
「社会的コンテキストを無視したデータドリブンマーケティングは受け入れられない」と題し、“コロナ禍”においてデータを活用したマーケティングを進めるうえでの社会的コンテキストの重要性などについてお話ししました。
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データマーケティングにおける「商品・サービスの雇用理由」を捉える重要性
市川 真樹(以下:市川) DATUM STUDIOの市川と申します。マーケティング戦略部の部長をやらせていただいています。DATUM STUDIOは、データ分析などを行っている会社ですが、AIの構築やデータ環境の整備とその運用、といった領域まで一気通貫に取り組ませていただいています。本日は宜しくお願いいたします。
稲葉 優一郎 氏(以下:稲葉) FICCの稲葉と申します。私は主にマーケティングとブランディングの領域に関しての取り組みやサポートをしていますが、消費者のことをしっかりと理解・分析し、ターゲットの方の固有の文化や文脈を捉えたうえでのコミュニケーション戦略を特に専門分野とさせていただいています。宜しくお願いいたします。
何故サービスを利用しているのか、雇用理由を分類
市川 今回はまずはじめに「社会的コンテキストとは?」ということについて触れておきたいと思います。基本的には、社会的な文脈、脈絡、状況、前後関係、背景といった、ターゲットを取り巻く社会や環境における共通認識や共通の状況を指します。現在のコロナ禍の中でのわかりやすい例で言うと、「不要不急の外出は避けるべき」や、「感染に配慮して、距離を取ることがマナーである」といったことが挙げられます。続いて、「なぜデータを活用したマーケティングに取り組んでいるのか?」ということについて考えてみます。データ活用にもさまざまな目的があると思いますが、一つの大きな目的として「さまざまな目的を持った消費者がブランドやサービスを使ってくれているので、その一人ひとりに寄り添って、最大限満足してもらうためのサポートや手助けがしたい」ということが挙げられるかと思います。その目的の達成をお手伝いするために、弊社ではどういった考え方で取り組んでいるかということを簡単に紹介させていただきます。まずサービス・商品の雇用理由を分類いたします。
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有料放送の企業様を例に挙げますと、子育て中のママさんが使っている理由としては「子どもをあやすために子ども向けの番組を流したい」や、ゴルフ好きの方は「ゴルフ関連の番組を流しっぱなしで“ながら見”したい」という理由、海外ドラマ好きの方は「特定の海外ドラマを放送しているからそれを見たい」といった形で、人それぞれによってサービスを雇用している理由は異なると考えています。
自社データや3rdパーティデータからサービス雇用理由を分類
市川 雇用理由の分類方法としては、まず実際にユーザーのデータを集め、どんな形でサービスや商品を使っているかということを、自社のデータを中心に、足りなければ他社(3rdパーティデータなど)のデータを使いながら、その理由を明確にしたり、仮説を立てたり、といったことができるようなサービスを弊社では提供させていただいています。雇用理由でターゲットを分類することのメリットについて、稲葉さんからお話しいただけますでしょうか?
稲葉 私たちが普段マーケティングに取り組ませていただいている中で、ターゲットを捉えることがとても重要なポイントだと考えています。捉えるべきターゲットの定義としては、充分なボリュームがあることや購買可能性が高いことが挙げられます。ユーザーを、ひと塊の顧客群として捉えてしまうと、それぞれにシャープなコミュニケーションをとることは厳しくなります。そして、実際にブランドを愛してくれている理由や、長く使ってくれている理由はそれぞれにあると考えられますが、それらを分類すると、数はそこまで多くなかったりします。
そうすると、それぞれの雇用理由はしっかりボリュームが確保できるようなものになる可能性が高く、ボリュームと購買可能性の両方を担保できるターゲットになるという点で、購買理由でクラスタリングをしていくことのメリットがあるのではないかと考えています。
サービス利用者を目的別でクラスタ化
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稲葉 有料放送を例に考えた時に、ユーザーの雇用理由とサービスの特性が合致しているかを見ると、流しっぱなしで見られる点においては、子ども向け番組やゴルフ番組を見たい方のニーズとはしっかり合致すると思います。一方で、特定のドラマが目的だという方の場合、もしかすると定額制の動画配信サービスのような、自分の見たい番組をいつでも見られるサービスのほうがマッチしている可能性があるかもしれません。実際に、いま自分たちのサービスやブランドを利用していただいている方の雇用理由を見ることで、その方たちの満足度を上げていったり継続率をアップしていったりするようなコミュニケーションを、それぞれにしっかりパーソナライズした形でできるようになることも大きなポイントだと思っています。
子ども向け番組が目的のママさんには、子どもの大好きな番組が一番家事が忙しい時間帯に放送していることを伝えたり、ゴルフ番組をながら見したいという方に対しては、「休日のゴルフチャンネルでは名試合を一挙放送」といったことを伝えていくことで、よりそのサービスを好きになってもらえる可能性が高まるかもしれません。
限りある広告費をどこにアロケーションするのか?
稲葉 また、データを活用してマーケティング活動をする上では、今の顧客にアプローチするだけではなく、そこから拡張し広告を配信して新規顧客を獲得していくサイクルも非常に重要です。目的とサービスの合致度が高いところは継続率が高くなるケースがあるので、「このクラスターからの継続率は高い」という傾向や、反対に、目的との合致率が弱いところで継続率が低いことが見えてくるのであれば、限りある広告費をどこにアロケーションしていくかということに対しても、指標となる重要なポイントになると思っています。
ひと塊のターゲットとして捉えてそこにただ広告費を投下するとなると、費用対効果はなかなかわかりにくくなると思いますが、その中で特に親和性の高いターゲットを捉えることができれば、そこに対してアロケーションを集中していくことで、ROIの向上も見込めるようになると考えています。
市川 私もターゲットのボリュームは重要だと思っておりまして、データでパーソナライズするというと、100万人に対して100万通りのメッセージを送るというイメージを持たれる方は結構多いかと思いますが、実際にそれをやるとなるとオペレーションなどの面において現実的とはいえません。まず雇用理由でユーザーを分類し、それに応じてコミュニケーションを変えたり広告予算の配分を変えたりしていくことが重要です。
ここまでのお話を簡単にまとめますと、
■自社ブランド・サービスを愛用してくれている方々の雇用理由は様々で、正直相性のいいクラスタも悪いクラスタもある
■雇用理由を捉えることができれば、利用者の体験を改善するパーソナライズな対応が可能になる
■雇用理由があきらかに相性が悪いケースを発見した場合、広告予算をアロケーションすればROIを上げるチャンス
という3点になるかと思います。
これらから、データマーケティングの成功の定石は「自社のブランドやサービスを雇用している理由を見つけること」であるとお分かりいただけるかと思います。では何故、社会的コンテキストがデータマーケティングにおいて重要になってくるのでしょうか。これについては稲葉さんからお話しいただければと思います。
社会的コンテキストの変化は、雇用理由も変化させる
稲葉 冒頭にも市川さんからお話がありましたが、新型コロナウイルスによる生活の変化は、自分たちが今まで考えてきた価値観やとってきた行動が変わる大きなきっかけになったと思っています。それ以外に、ここ数年で皆さんの価値観に大きな変化があったと思われる部分では、ジェンダーについてや、働き方に関してもここ数年で徐々に変わっている部分があります。
つまり社会的コンテキストの変化とは、世の中の認識や状況が変わっていくことによって自身の価値観も変化していくことだと考えています。例えば、自宅で利用しているワーキングチェアをこのタイミングで買い換えたという方は結構いらっしゃるかと思います。私自身も、ゲームをする時に1日2〜3時間利用するような趣味のための椅子として、インテリアとしての見た目を重視したものを選んでいたのですが、コロナ禍でリモートワークが増え、見た目重視で選んだ椅子の座り心地が悪いと感じ始め、今の自分の理想とだんだんマッチしなくなってきました。同じ家の中における椅子をとっても、求めている自分の中の理想像が社会的コンテキストの変化により変わっていったなと感じています。
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社会的コンテキストが変化する中で、消費者の中にどのような変化が生まれるのかを行動認知学から簡単に分析していくと、「動因」「欲求」「行動」という3つの段階に分けられると考えられ、その中でも一つ目の「動因」が、社会的コンテキストが変わることによって大きく変化する部分だと考えています。動因は「理想と現実の不一致を感じたときに、それを解消したいという欲求」と考えていただければと思います。コロナ禍によるリモートワークが始まったことによって、元々は見た目が良い椅子が自分にとっての理想であったものの、その理想の椅子が世の中の変化によって突然自分にとっての理想ではなくなり、それを解消したい気持ちが次の行動につながっていくということが起きた、と考えられます。
社会的コンテキストの変化によるブランド・サービスの雇用理由の変容
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市川 リモートで会議をすると、インテリアはかなりお洒落なのに、その部屋にあまり合っていないゲーミングチェアに座っている方もたまに見かけますね。
稲葉 そうですよね。そういった方たちも、社会的コンテキストの変化による理想と現実の不一致によってゲーミングチェアを買ったと思われますが、今後この状況が長引いてくると、そのうち「座りやすいけどもっとインテリアに合った椅子が欲しいな」と理想がさらに変化していくことも増えてきそうです。
社会的コンテキストの変化によるターゲットポートフォリオの見直しが必要
稲葉 有料放送さんの例で考えてみますと、ゴルフ好きの方の動因としては「毎月のゴルフで全く勝てない」「スコア100を切るような仲間たちと張り合えるぐらいうまくなりたいけど、理想通りになっていない」ということがあり、「自分もスコア100を切れるぐらいうまくなりたい」という欲求が生まれ、そのための行動として「まずは、ゴルフ番組でプロのスイングを見て学習しよう」ということでゴルフチャンネルを流しっぱなしで見ている、と想定されます。それがコロナによる外出自粛でどう変化しうるか?という点ですが、例えば、毎月ゴルフをしていたけれど、直接会うこともできず、ゴルフの機会がなくなってしまった。そうすると、動因になっていた理想と現実のギャップがなくなっていくので、ゴルフの上達へのモチベーションが下がり、「今はゴルフチャンネルをそんなに見なくてもいいかな」と変わっていくことが想像されます。社会的コンテキストが変わっていくことによって、自分の中での理想と現実の不一致は生まれていきますし、先ほどのケースで言いますと、もともと不一致があったから、何かしらのモチベーションになっていたという状況が起きていたにもかかわらず、それがこの状況の変化によって無くなることもありうるのが大きなポイントかと考えています。
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そのようなことが起きると、元々は自社のサービスを継続利用する雇用理由になっていたものが、ネガティブに働いてしまう可能性があります。一方で、限られた時間の中で自分の好きなドラマだけを見たいと思っていた方にとっては、コロナ禍によって、リモートワークになって時間が増えたことで今まで見られなかったドラマも見られるようになったことから、もっと色々な番組を見たいという雇用理由が新たに生まれ、それまでは合致率が低かったところがより合致してくるということが起きると考えています。
市川 この点においてデータを活用する意味についてですが、ユーザーを雇用理由ごとに分けることができていれば、実際に何かが起こったときに、例えばこのパターンだと視聴時間が減ったとか、逆にこの人たちは視聴時間が増えたといったことをそのままデータで見ることができると思います。変化のタイミングでそれを把握できていなかったりすると、「なぜこの人は視聴時間が減ったのか?」という点で要因がわかりづらく分析もしづらくなってしまうことがあります。
稲葉 状況の変化に対する顧客の変化を捉えることができるのが、データを使うことのメリットの一つだと思っています。新規顧客の獲得に向けた広告の運用における材料としてデータを活用することももちろん、一つの答えではあると思いますが、データから利用者の雇用理由や実際の行動が見えてくることも非常に多かったりするので、そういった変化をしっかり捉えられるようにするためにはやはりデータを使うことが非常に重要であると考えています。一方で、データをうまく使えないとどのようなことが起きるのでしょうか。先ほど広告費のアロケーションによるROIの向上についてお話いたしましたが、それが一回うまくいったからといって、そのまま継続し続ければいいのか、というと全くそうではありません。
社会的コンテキストの変化を捉え投資効率の改善を図る
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稲葉 コロナ禍のように大きく捉えやすいものではなく、“世の中ごとではないものの、その環境の中においては変化である”ことにおいても、顧客の変化が起きることがあります。そういった状況を捉えられずに継続して投資し続けてしまうと、継続率が下がっている人に対して大きく投資を続けることとなり、獲得に対してたくさんの広告費を使ってしまう状態になり得ます。こうした部分を発見できないまま放置してしまうと、ROIの低下につながってしまうことは想像できるかと思います。
一方で、時間が増えたことにより、ドラマ番組を目的とされているような方たちのニーズが増えたにもかかわらず、このクラスタの新規顧客を獲得できない、ということも起こりうるので、変化を確実に捉えることを考えると、やはりデータを使っていくことが非常に重要なポイントになると思っています。
市川 先ほど稲葉さんから新規顧客の獲得についてのお話が出ましたが、どの企業においても、新規顧客の獲得をするために広告を使う話と、ユーザーをロイヤルティ化させる話が分断して考えられがちだなと感じています。新規顧客の獲得は、できるだけコストを安くしてCPA(Cost per Acquisition=顧客獲得単価)を下げることを目的にする、ロイヤルティ化では定着率やLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)を上げる、とそれぞれに目的が違うと考えられていることが多いかと思いますが、新規顧客を獲得するときから「この人は子ども向けの番組を見る人だ」ということを捉えることができると、獲得からサービスの定着までを一気通貫で出来るようになって良いと思います。
ここまでお話ししたことをまとめると、
■自社に関連する社会的コンテキストの変化を捉えたら、ブランド・サービスの雇用目的が変わっていないか分析する
■ブランド・サービスの雇用目的毎に顧客のデータを蓄積し、サービスの利用状況を分析することが必要
■パーソナライズコミュニケーションのミスマッチを放置すると、ネガティブ体験による顧客の離反につながりかねない
という3点になるかと思います。社会的コンテキストの変化を捉えて、顧客の雇用理由に注目すれば、どういった状況でも最適化することができるのではないか、と思っています。
やるべきことは「顧客との接点をデータとして残す」
市川 では今実際にやるべきことは何なのか?というところですが、まず顧客の属性をサービスの雇用理由でしっかりと分けておくこと、そして何かが起こった時(現在で言うとコロナ禍)を境に、個々の雇用理由の割合が増えているのか・減っているのかをしっかり観察し、変化があるところは雇用理由と実際のサービスで不一致が起きている(現実と理想のギャップがある)層である可能性があるので、そこのギャップをなくすために何か新しいレコメンドをしたり、または広告投資を少なくしたり、などといった調整をすることが必要であると考えています。
すでに変化が起こっているかもしれないと感じてらっしゃる方は、今あるデータをしっかり分析することが必要です。もし過去のデータが溜まっていないということであれば、今からでも遅くありませんので、顧客との接点や、利用状況がわかるようなデータを取得し残すのが重要だと思います。そこからユーザーの雇用理由を分析し、ペルソナを可視化してコミュニケーションを行ったり、また利用状況を常にデータで見られるようにしておけばどんな変化にもすぐに対応できるのではないかと思います。
では、最後に本日のまとめです。
■データマーケティングの成功の定石は自社のブランド・サービスを雇用する理由を見つけること
■社会的コンテキストの変化を捉えて顧客の雇用理由に注目すればこの状況に最適化できる
■顧客の属性に変化が現れていたら雇用理由の変化が無いか顧客理解を徹底する
ここまでで触れられていないのですが、デモグラフィック属性(人口統計学的属性=性別、年齢、居住地域など)で分析をしたりしても、顧客の変化は捉えられないところがあります。雇用理由が変わり、サービスを使わなくなった・反対に使うようになったという人がいても、そこに性別や年齢は実はあまり関係なかったりしますよね。
稲葉 そうですね。デモグラフィック属性は雇用理由には特に関係が無いかなと思います。ただマーケティングの現場ではそれが未だにターゲットを切る指標として一つの選択肢になっているという状況があるので、そこだけではないと感じてはいますね。
市川 そうした点からも、雇用理由をしっかり捉えるためには顧客との接点を取っていくことが重要です。この時代ですと、幸いなことに5GやIoTで、さまざまなものがインターネットとつながる仕組みが構築されています。これまでオフラインの領域で勝負していた方々も、例えば流通さんと連携して、来訪者のことがわかるようにデータを取ったりと、データ化できる場は非常に広がっていると思います。
まずは顧客との接点をしっかりデータとして取得し、そのデータを溜め、そこから雇用理由が(ハッキリとはわからないとしても)仮説が立てられるようなところまで分析すること、そしてそれに基づいてコミュニケーションをしたり、その状況がどう変化しているかを見ていく、ということが、急速に変化する世の中では重要ではないかと思います。
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