オンラインとオフラインのギャップを埋める広告施策の最前線:KDDI × Supershipが語るデータクリーンルーム活用事例

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オンラインとオフラインのギャップを埋める広告施策の最前線:KDDI × Supershipが語るデータクリーンルーム活用事例

個人情報保護規制の強化やクッキーレス化の進行によって、オンライン広告の効果測定が以前にも増して困難になっています。また、オンライン広告が店頭契約や実店舗での購買にどれだけ影響を与えているかが「見えづらい」という課題は、多くの企業が直面しているのではないでしょうか。

そこで注目を集めているのがデータクリーンルーム(Data Clean Room)です。企業や媒体社が保有するファーストパーティーデータを安全に突合し、オンライン×オフラインの顧客行動をより立体的に把握する仕組みとして、多くの可能性を秘めています。

本記事では、KDDIが実際にデータクリーンルームを活用した施策事例をもとに、オンライン接触データとオフラインの顧客行動データを組み合わせ、広告施策の成果を高める方法について掘り下げていきます。広告主としての視点を持つKDDI株式会社 コミュニケーションデザイン部 大下倉  舞 氏と、データクリーンルーム活用支援・テクノロジーの視点を持つSupership株式会社 ビジネスプロデュース部 データアナリティクスG グループリーダー 杉野 健二へのインタビューを通じて、具体的な事例や成功のポイントを詳しくご紹介します。

データクリーンルームとは?

──まずは「データクリーンルーム」について、簡単に教えていただけますか?

杉野(Supership) データクリーンルームとは、個人を特定できない形で複数のデータを安全に突合・分析できる環境のことです。ファーストパーティーデータや外部の広告ログを掛け合わせる際に、匿名化・統計加工された指標のみを用いるため、プライバシーを厳格に守りつつ高度な分析ができます。

データクリーンルームの概念図
データクリーンルームの概念図

 クッキーレス時代においては、企業が自ら保有するファーストパーティーデータの重要性がますます高まります。顧客の同意を得て収集した購買履歴や会員情報、Webサイトの行動履歴などをどう活用するかが、マーケティングの成否を左右すると言っても過言ではありません。

しかし、ファーストパーティーデータだけでは顧客の全体像を把握しきれない場合も多いのが実情です。そこで、データクリーンルームを活用して媒体社などが保有するデータと安全に連携すれば、より多角的な分析が可能になります。

KDDIが抱えていた課題:オンラインとオフラインの接点可視化

──KDDI様では、従来のマーケティング施策や広告配信において、具体的にどのような課題感をお持ちでしたか?

KDDI株式会社 コミュニケーションデザイン部 大下倉 舞氏
KDDI株式会社 コミュニケーションデザイン部 大下倉 舞氏

大下倉(KDDI) 大きくは2点あります。まず、クッキーレス化の流れやブラウザのトラッキング規制などの影響で、オンライン広告の成果を把握しづらくなってきたことです。以前はCookieを活用したターゲティングや効果測定が比較的スムーズでしたが、今はそれが難しくなってきています。

加えてKDDIでは、auショップをはじめとしたオフラインチャネルでの顧客接点が多いため、オンライン上のコンバージョン指標だけでは広告効果の一部しか把握できないという課題がありました。オンライン広告経由で認知や興味喚起がなされても、実際には店頭で『最終契約』に至るケースが非常に多いのです。そこをしっかり補完したい、というニーズがデータクリーンルームの導入を検討した背景の一つでした。

「その課題を解決する」Supershipのデータクリーンルーム活用支援:仕組みと強み

──オンライン×オフラインのギャップを埋めたいというKDDI様のニーズに対して、Supershipではどのような支援を行っているのでしょうか?

Supership株式会社 ビジネスプロデュース部 データアナリティクスG グループリーダー 杉野 健二
Supership株式会社 ビジネスプロデュース部 データアナリティクスG グループリーダー 杉野 健二

杉野(Supership) Supershipではデータクリーンルームを活用した広告支援サービスを展開しており、KDDI様との連携においてもいくつかの大きな特徴と強みを有しています。

まず、KDDI様が構築・運用されている顧客データ管理プラットフォームと連携することで、KDDI様が保有する多様なファーストパーティーデータを活用した分析が可能です。これにより、より顧客理解を深めた上での施策実行が期待できます。

また、外部プラットフォームのデータクリーンルーム(例:Google Ads Data HubやYahoo! Clean Room)とも連携できる点も強みです。媒体社の広告配信ログやデモグラフィックデータ、興味関心データといった豊富な情報をKDDI様のデータと掛け合わせることで、オンライン広告と実店舗での行動が繋がりやすくなります。

さらに、個人が特定できないよう匿名化・統計加工された指標のみを取り扱いながら、0次分析※(興味関心分析、クラスタリング分析など)や広告効果検証(増分効果分析、サーチリフト分析など)といった多彩な手法をご用意しています。これにより、ターゲット顧客の理解から広告効果の測定、さらに次回の施策への示唆出しまで、幅広いニーズに対応可能です。

(※0次分析についてはこちら:https://supership.jp/news/2024/12/19/13392/

これに加え、Supershipでは事前のプランニングから、広告配信、効果検証、そして次回の施策へのフィードバックまでをワンストップでサポートしている点も大きな特長です。分析結果をそのまま施策に落とし込み、PDCAを回す過程で継続的な効果改善をご支援できる体制を整えています。

データクリーンルームを活用したマーケティングのPDCAサイクル

──データクリーンルームを使った施策は、具体的にどのようなプロセスで進めていくのでしょうか?

杉野(Supership)  データクリーンルームを使った施策の一般的なプロセス自体は、基本的なデジタルマーケティングと大きく変わりません。ただ、オフラインの行動データを掛け合わせることで、施策全体がより立体的になるイメージです。流れとしては以下のようになります。

  • 事前分析: 0次分析や顧客ペルソナの把握を行います。ターゲット顧客の特性や興味関心をデータに基づいて明らかにします。
  • ターゲットセグメント設定: 事前分析で得られた顧客理解に基づいて、広告配信のターゲットセグメントを定義します。
  • 広告配信実施・運用チューニング: 設定したターゲットセグメントに対して広告を配信し、PDCAサイクルを回しながら効果の最大化を目指します。
  • 効果検証: データクリーンルームならではの分析手法(増分効果分析、サーチリフト分析など)を用いて、広告接触の効果を詳細に検証します。
  • 次回施策へのフィードバック: 効果検証の結果を次回のプランニングに活かし、より効果的なマーケティング活動へと繋げていきます。
Supershipデータクリーンルームを活用したマーケティングのPDCAサイクル
データクリーンルームを活用したマーケティングのPDCAサイクル

具体的な施策事例と成果:オンラインとオフラインを繋いだ効果測定

(1) マネ活プランの広告効果検証(増分効果分析)

──まずは「マネ活プラン」の増分効果分析について教えてください。

杉野(Supership)  「マネ活プラン」の広告効果検証では、オンライン広告への接触が、オンライン加入だけでなく、店頭契約を含む全体の加入率向上にどの程度影響を与えたのかを分析しました。

その結果、オンライン加入においては静止画広告のリフトが高く店頭加入を含む全体では動画広告のリフトが高いという興味深い結果が得られました。

この分析結果を踏まえ、動画広告をメインとしたメディアプランに再構築することで、施策全体の成果拡大に繋げることができました。オンラインとオフラインの成果をセットで分析すると、より正確な広告戦略を立案できる好例となりました。

データクリーンルームを活用した「マネ活プラン」のチャネル別広告効果
データクリーンルームを活用した「マネ活プラン」のチャネル別広告効果

(2) au PAYゴールドカード会員の0次分析

──次に、au PAYゴールドカード会員の0次分析(興味関心分析)で得られたインサイトについて教えてください。

杉野(Supership)  au PAYゴールドカード会員様の0次分析では、契約者データとGoogleのアフィニティ(興味関心)データを突合させ、どのような興味関心を持つ方が多いのかを可視化しました。

一般的なイメージとして、ゴールドカード会員は金融関連の興味関心が高いと考えられますが、分析の結果、それだけでなく「買い物好き」「SNS利用率が高い」「美容・健康への関心が高い」といった層が顕在化しました。

au PAYゴールドカード会員の興味関心分析結果から従来の固定観念にとらわれない新たなターゲット層を発見

このインサイトをもとに、マネ活プランの新たなターゲット層の発掘に繋げました。従来の金融関連の興味関心層に加えて、これらの新たな興味関心層にもアプローチした結果、CVR(顧客加入率)やCPA(顧客加入単価)の改善が見られました。

この成果を受けて、当該広告配信は継続されることが決定し、より効率的な加入促進を実現しています。これは、データクリーンルームを活用することで、従来の固定観念にとらわれない新たなターゲット層を発見できることを示す好例と言えるでしょう。

既存+新規ターゲット層への広告配信により、効率的な加入促進を実現

データクリーンルームを活用した広告施策で得られた価値

──KDDI様として、こうした分析結果を踏まえどのような価値を感じていらっしゃいますか?

大下倉(KDDI)  今回ご紹介した2つの事例を通じて、データクリーンルームの活用には非常に大きな価値を感じています。

特に、au PAYゴールドカード会員様の0次分析で得られたインサイトは非常に印象的でした。金融商品のプロモーションというと、どうしても金融に関心の高い層やビジネスマンといったターゲット像を想定しがちですが、データに基づいて分析した結果、「買い物好き」や「美容・健康」に関心が高い層が重要なターゲットになり得るという、従来のプランニングでは見過ごされていた可能性を発見できたことは大きな収穫でした。しかも、その新たなターゲットへのアプローチが実際に効果に繋がっているという点で、データドリブンな意思決定の重要性を改めて認識しました。

また、オンラインとオフライン双方のデータから的確なターゲット発見ができるようになったことで、広告判断の幅が格段に広がりました。特に、店頭やオフラインの顧客行動を把握できるようになったことは、従来のオンラインCV指標だけでは見えなかった大きな強みだと思います。分析結果をターゲティングセグメントとして即活用できるので、効率的な施策実行が可能になった点も魅力です。

オンライン×オフラインを統合分析する際のポイント

──オンラインとオフラインのデータを統合して分析する際、技術や運用上の注意点はありますか?

杉野(Supership)  そうですね。基本的には「データの整備」と「結果を施策に活かす連携体制」の2点が重要だと考えています。

まず、データ整備ですが、具体的には、オンラインとオフラインの顧客データを紐付けるためのID連携や、データスキーマの統合などが挙げられます。KDDI様のように、グループ会社内にデータ連携基盤が整備されている場合は比較的スムーズに進められますが、そうでない場合は、お客様におけるデータガバナンスを踏まえた社内外の関係者との綿密な調整が不可欠となります。

そして最も重要なのは、分析結果を実際の広告配信に生かすための連携体制を整えることです。分析結果を「なるほど」で終わらせるのではなく、具体的なアクションに繋げられるよう、意思決定プロセスを含めたプロジェクト体制を事前に構築し、関係者間で共通認識を持つことが成功の鍵となります。

データクリーンルームの本質と今後の展望

──最後に、データクリーンルームの本質と今後の役割について、お二方のご意見をお聞かせください。

大下倉(KDDI)  私自身、データクリーンルームはあくまでマーケティングにおける数多くの手段の一つだと考えています。データクリーンルームを導入すれば全てが解決するというわけではなく、他のデータ分析手法やツールと組み合わせながら活用していくことが重要です。

その上で、今回の事例を通じて強く感じたのは、データに基づいて顧客を深く理解し、その理解に基づいた施策を実行し、効果を検証していくという、マーケティングの基本的なプロセスを高度化する上で、データクリーンルームが非常に有効なツールであるということです。今後、クッキーレス化がさらに進む中で、プライバシー保護とデータ活用を両立させるための重要な選択肢の一つとして、データクリーンルームの活用はますます広がっていくのではないかと期待しています。

実店舗を持つ企業にとっても、データクリーンルーム活用は非常に大きなメリットがあります。これまでオンライン広告の効果測定は、どうしてもオンライン上の指標に偏りがちでしたが、データクリーンルームを活用することで、オフラインのCV(来店、契約など)の傾向をより深く把握し、オンライン広告との補完関係を探ることが可能になります。

杉野(Supership)  おっしゃる通り、私もデータクリーンルームは万能の打ち出の小槌ではなく、あくまでデータドリブンマーケティングを実現するための重要な手段の一つであると認識しています。

Supershipとしては、データクリーンルームの導入・活用支援を通じて、お客様がデータに基づいて本質的な課題解決に繋げられるようサポートしていくことを重視しています。単にデータ分析の結果を提供するだけでなく、その結果をどのように具体的な施策に落とし込み、ビジネス成長に貢献できるのかという視点を持って、お客様に伴走していきたいと考えています。

──最後に、Supershipとしての今後の展望があれば教えてください。

杉野(Supership)  KDDI様との大規模プロモーションで培った知見を活かし、今後はKDDI様以外のお客様にも、データクリーンルームを活用したデータ利活用ソリューションをご提供していきたいと考えています。

クッキーレス化が進む中で、セキュアな環境下でファーストパーティーデータを活用した分析ニーズは、今後ますます高まるはずです。こうしたなか、データドリブンマーケティングを推進する上で、データクリーンルームは強力な武器となります。

Supershipは、自社開発の広告配信プラットフォームと、KDDI様データを活用した大規模プロモーションのプランニングから運用まで、多くの実績を重ねてきました。その上で近年は、リテール事業者様向けのデータ利活用ソリューションにも注力しており、例えば、「Supership Touch Gift(タッチギフト)(※NFCを活用した店舗型リテールメディアソリューションで、オンラインとオフラインのデータをシームレスに統合・活用可能)は、リアル店舗を持つリテール企業のデータ拡充を支援しています。

今後は、タッチギフトをはじめ、オンラインとオフラインのデータ活用を支援するさまざまな手段を組み合わせ、最適なプロモーションをご提案していきたいと考えています。KDDI様の事例で培った顧客理解や施策実行・検証の知見を活かし、幅広い業界でデータドリブンマーケティングをご支援してまいります。

お問い合わせ

本事例に興味を持たれた方、データクリーンルームの導入や運用にご興味をお持ちの企業様は、ぜひSupershipまでお問い合わせください。まずは自社データの現状整理や、オンライン・オフラインの顧客接点を洗い出すことが重要です。その上で、データクリーンルーム導入の可否や活用方法をご相談いただけます。 詳しくは以下のフォーム よりご連絡ください。


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SupershipはKDDIのハウスエージェンシーの機能を担っています。ハウスエージェンシーとしての経験値を活かし、クライアントの課題や悩みに寄り添った企画・提案により、オーダーメイド型の質の高いサービスを一気通貫で提供しています。データを駆使した緻密な広告配信設計や運用実績による豊富なノウハウで、クライアント企業のビジネス成功を目指しご支援いたします。

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