2026年9月3日(木)、SupershipグループのSupershipとMomentumは、共催セミナー「広告費は上がり続けている中、なぜLTVは伸びないのか?」をオンラインで開催しました。
広告費は上がり続け、顧客接点の増加や広告配信・CRMの高度化も進んでいます。それなのに、なぜLTV(顧客生涯価値)は伸びないのでしょうか。本セミナーでは、原因として「顧客体験の分断」と「データノイズ」の2つに焦点を当てました。接点ごとに体験が途切れていたり、分析や最適化の前提となるデータにノイズが混ざっていたりすると、施策を重ねても成果は伸びにくくなります。
セッション1では、Supershipの松原が、顧客の納得を積み重ねる「意味醸成型マーケティング」と顧客体験設計について講演しました。続くセッション2では、Momentumの新原氏が、広告品質対策でデータの質を高め、マーケティングの成長につなげる考え方を解説しました。本記事では、2つのセッションの要点を振り返ります。末尾では当日のアーカイブ動画もご案内していますので、ぜひご活用ください。
セッション1:LTVを高める「意味醸成型マーケティング」とは?〜「Personality × Context × Moment」で実現する、総LTV最大化アプローチ〜

登壇者:松原 寛弥(Supership株式会社 マーケティングアーキテクト本部 本部長)
大手通信会社にてマス・デジタルの統合マーケティングをリードしたのち、2017年にSupershipへ参画。「Supershipならではのデータ価値の最大化」をテーマに、DMPを用いた0次分析や媒体DCR活用などの支援サービスを立ち上げる。並行して、数々のプロジェクトを通じて、データ起点のコミュニケーション戦略(上流コンサルティング)から施策PDCAの仕組み化までをハンズオンで実践しながら、自社のマーケティング支援領域を拡張させる役割を担う。直近では「LTV最大化」を掲げ、広告とCRM領域を統合するマーケティングアーキテクチャを推進し、会社の成長を牽引している。
広告費を増やしても総LTVが伸びない、「悪循環」の構造
獲得単価(CPA)は年々高騰を続ける一方で、サブスクリプションサービスの解約意向率や初回購入者の離脱率は高い水準で推移しています。「獲得しにくく、定着もしにくい」という両面から、総LTV(顧客生涯価値の総量。顧客数 × 顧客単価 × 継続率)が削られているのが現状です。
新規獲得のコストが上がり、獲得した顧客も定着せずに離脱していきます。その穴を埋めようとさらに広告費を投じることで、広告依存が強まる悪循環に陥っています。ただし、この悪循環を招いているのは、CPAの高騰といった外部環境だけではありません。もう一つの要因が、獲得から育成までの間で起きている「顧客体験の分断」です。

「顧客体験の分断」はどこで起きているのか
たとえば、漫画アプリでこんな経験はないでしょうか。広告で見た作品に惹かれてLPへ進んだのに、そこには作品の情報がありません。アプリを起動してみても見つからず、探すのが面倒になってそのまま離脱します。その後に届く通知も全員一律の内容で、興味のないジャンルばかりが並ぶため、通知をオフにしてしまいます。
広告、LP、アプリ、通知と接点は増えているのに、接点から接点へ文脈が引き継がれないため、せっかく高まった期待が途中で失われていくのです。この分断は、新規顧客でも既存顧客でも離脱に直結します。
Supershipでは、分断の要因を3つの軸で整理しています。施策がチャネル間で連携していない「チャネル」の分断、データがツールごとに分散している「データ」の分断、チャネルごとに別のロジックで組まれている「ロジック」の分断です。この3つが重なると、顧客から見た体験は「線」ではなく「点」になります。

ファネル起点から顧客起点へ——「意味醸成型マーケティング」
こうした分断は、マーケティングをどの単位で管理しているかにも原因があります。認知・興味・比較検討・購入といった段階ごとにKPIや施策、担当を分けて管理する「ファネル思考」は、施策単位の評価や管理に今なお有効です。ただ、顧客一人ひとりの流れに沿って見ると、段階が変わるたびに文脈が引き継がれにくくなります。KPI・施策・組織の分断は、ここから生まれます。
とはいえ、ファネル思考を捨てる必要はありません。施策の評価・管理はファネルで行いながら、それとは別に顧客起点の視点を持つことが求められます。そこでSupershipが提唱しているのが「意味醸成型マーケティング」です。
購買に至る経緯は顧客によってさまざまです。それでも、複数の接点を通じて「自分にとって意味がある」という納得感が積み上がり、その人の中の閾値を超えたときに行動が起きる、という流れは共通しています。一方的に説得するのではなく、顧客ごとに納得感の閾値を捉え、そのつどコミュニケーションを最適化していきます。これが「説得ではなく納得」を軸にした考え方です。

顧客起点を実現する2つのステップ
では、これをどう実務に落とし込むのか。松原が示した手順は、大きく2つです。
ステップ1:マーケティング設計図の作成・点検
まず、自社のマーケティングがどのようなチャネル・データ・ロジックで構成されているかを可視化します。「流入経路別にLPコンテンツを最適化できているか」「GA4とアプリログデータを統合できているか」といった観点で点検し、どこをつなげば一貫した体験になるのかを見極めます。

ステップ2:設計図の施策への落とし込み
続いて、施策に落とし込む際に鍵となるのが、3種類の顧客理解です。
- Personality:どんな価値観・興味を持つ人か
- Context:どんな経路・文脈で今ここにいるのか
- Moment:意思決定の直前か、まだ迷っている段階か
平均像としてのセグメントではなく、顧客ごとにこの3点を捉えることで、はじめて納得感の閾値を判断できます。データは最初からすべて揃える必要はなく、優先度が高くインパクトの大きいものから着手するのが現実的です。

データで実現する顧客ごとのCRMコンテンツ最適化
ここで壁になるのが「自社データだけでは顧客を捉えきれない」という現実です。
そこでSupershipが提供しているのが、約3.5億IDを保持するパブリックDMP(データマネジメントプラットフォーム)「Fortuna」です。属性情報やWeb行動ログなどを掛け合わせ、自社データのみでは見えにくいPersonality・Context・Momentを補完します。
Fortunaを使った実装例を2つ紹介します。
①MA(マーケティングオートメーション)ツールと連携したコンテンツの出し分け
Fortunaのデータを使えば、手がかりのない初回来訪者にも、最初の接触から先手を打った出し分けができます。たとえば、ビジネス関心層がLPに来訪すればビジネス向けコンテンツをファーストビューで表示し、エンタメ関心層にはエンタメ関連のクーポンをポップアップで出す、といった使い方です。

※2026年9月29日、Fortunaと株式会社プレイドのCXプラットフォーム「KARTE」のデータ連携により、初回来訪時からの出し分けなど、Web接客の高度化を支援するサービスを開始しました。詳しくはプレスリリースをご覧ください。
②自律型AIプロダクトと連携したコンテンツの自動最適化
サイト上の行動データとFortunaのデータで顧客の状態を捉え、あらかじめ用意した複数のコンテンツの中から、その顧客に適したものをAIが自律的に選んで表示します。次に見せるコンテンツも、コンバージョンに向けて自動で最適化していきます。キービジュアルや訴求コピーといった要素単位で出し分けでき、Webサイトに限らずアプリやメールを横断した適用も可能です。
「初回来訪からのコンテンツ出し分け」と「AIプロダクト連携による自動最適化」は、自社データやツールだけでは着手しにくい領域です。だからこそ、ここにSupershipならではの価値提供が可能であると考えています。

セッション1のまとめ
広告費を投じても総LTVが伸びない背景には、獲得から育成までの顧客体験の分断があります。それを引き起こしているのは、「チャネル」「データ」「ロジック」がつながっていないことです。解消の入口は、設計図で分断のポイントを可視化することです。そして顧客起点の視点を持ち、Personality・Context・Momentから一人ひとりの納得感を積み上げていくことが大切になります。
セッション2:LTV向上を阻む「データノイズ」の正体〜アドフラウド・MFA排除で実現する、データ純度の高め方〜
松原が示したのは、一人ひとりの納得を軸に総LTVを高める「攻め」の設計でした。では、その土台となるデータそのものは信頼できるのでしょうか。
セッション2では、Momentumの新原氏が「守り」の側面から、LTV向上を阻む「データノイズ」の正体と対策を解説しました。

登壇者:新原 良太(Momentum株式会社 VP of Sales)
2017年にmedibaへ入社し、デジタル広告領域の営業・事業推進に従事。その後、Supershipでは西日本セールス責任者、プロダクトセールス部長を歴任し、営業戦略の立案や営業組織のマネジメントを推進。広告主・広告代理店に対するソリューション提案を通じて、多様な企業のデジタルマーケティング支援や事業拡大に携わる。2025年にMomentumへ参画し、ブランドセーフティやアドフラウド対策など広告品質ソリューションの営業を担当。2026年よりVP of Salesに就任し、広告品質の向上や広告ガバナンス強化をテーマに、企業のデジタル広告におけるリスク対策と事業成長を推進している。
施策が効かない、見落とされがちな理由:「前提となるデータ」の汚染
マーケティングの成果が伸び悩む際、クリエイティブやターゲティングの見直しから着手するケースは少なくありません。しかし、ここで見落としてはならないのが「そもそも施策の前提となるデータにノイズが混ざっていないか?」という視点です。
現在、運用型広告の多くはAIによる自動入札や最適化配信を前提としています。ボットによる不正なクリックや無効なコンバージョンまでAIが成果として学習すると、ボットや不正サイトに最適化した配信が続いてしまいます。その結果、CPAが高騰するだけでなく、無駄な配信先に予算が流出する「獲得の壁」に直面します。
また、ノイズを含んだデータで顧客分析を行うと、「実態と異なる顧客像」ができあがります。その顧客像をもとにCRM施策を実行しても期待した反応は得られず、LTVが伸び悩む「育成の壁」にぶつかります。
つまり、前提となるデータにノイズが含まれていれば、どれだけ施策を磨いても正しく機能しない可能性があるのです。

生成AI時代に急増するデータノイズのリスク
データノイズを生み出す要因として、新原氏は、近年の生成AIの普及によって急激に高まっている3つのリスクを挙げました。
リスク1:ボットトラフィックの急増
生成AIの進化で、ボットの開発や高度化が容易になりました。2024年にはボットによるアクセスがWebトラフィック全体の51%を占め、過去10年で初めて人間によるアクセスを上回ったという調査結果(※1)も出ています。被害の事例も深刻です。ある大手グローバル人材企業は数十万ドル(数千万円規模)を広告に投じたものの、投資対効果はほとんど得られませんでした。分析の結果、Webサイトへのトラフィックの83%が悪質なボットによるものだったと報告されています。
リスク2:不正・不適切アプリの大量発生
AIコーディング支援ツールの普及で、専門知識がなくても短時間でアプリを開発できるようになりました。その結果、広告収益だけを目的とした低品質なアプリが大量に出回っています。中には、ユーザーに見えないバックグラウンドで広告通信を強制実行する「ステルス消化」を行うものや、審査通過後に挙動を変えて不審なサイトへ強制的に転送するものもあります。こうしたアプリへの広告配信は、広告費の無駄遣いだけでなく、ブランドの信頼失墜にも直結します。
リスク3:MFA(Made for Advertising)サイトの脅威
MFAサイトとは、コンテンツが乏しく、広告費を詐取することだけを目的に作られた低品質なサイトを指します。現在は、生成AIで記事やサイトそのものを高速・大量に自動生成した質の低いコンテンツ「AI Slop」が広がり、MFAサイトの量産にも拍車がかかっています。確認されたAIコンテンツファーム(AIで記事を量産するサイト)の数は、2023年5月の49サイト(※2)から2026年6月には3,749サイト(※3)に増え、約3年で75倍を超えました。こうしたサイトへの配信が増えるほど、成果につながらないアクセスがデータに混ざり、AIの学習や顧客分析を歪める要因になります。
※1:Imperva、2025 Bad Bot Report(2025年4月) https://www.imperva.com/resources/resource-library/reports/2025-bad-bot-report/
※2:NewsGuard、Rise of the Newsbots: AI-Generated News Websites Proliferating Online(2023年5月) https://www.newsguardtech.com/special-reports/newsbots-ai-generated-news-websites-proliferating/
※3:NewsGuard、Tracking AI-enabled Misinformation(2026年6月23日更新時点) https://www.newsguardtech.com/special-reports/ai-tracking-center/

データ純度を高めるための3ステップ
こうしたデータノイズの脅威からどう身を守り、マーケティングを成長軌道に乗せればよいのでしょうか。新原氏は、具体的なアプローチとして次の3つのステップを示しました。
- 可視化(ノイズを知る):自社の広告がどこに配信され、どのようなアクセスが来ているのか、現状を正確に把握します。「自社の広告にどの程度ノイズが含まれているか」を知ることが第一歩です。
- 排除(ノイズを除く):不正なトラフィックや、ブランドを毀損するリスクのある低品質な配信先を、ブロックリストなどを活用してピンポイントで排除します。
- 再配分(価値ある接点へ投資する):対策の目的は広告を止めることではありません。ノイズを排除して浮いた予算を、本当に成果につながる配信先やLTV向上に寄与する施策へ再投資し、マーケティング全体のROI(投資対効果)を高めることが狙いです。
新原氏によると、アドフラウド(広告詐欺)を排除したことでCPAやCVR(コンバージョン率)が大幅に改善した事例は多数あるといいます。データ品質の向上を守りのためのコストと捉えるのではなく、マーケティング投資の効率を高める取り組みとして向き合うことが、これからのAI時代を勝ち抜く鍵となります。成果が出ない原因が施策ではなくデータの汚染にあると感じた際は、ぜひ一度「データの純度」を確認してみてください。

まとめ:「攻め」と「守り」の両輪でLTVを伸ばす
広告費が上がり続けているのに、なぜLTVは伸びないのか。本セミナーでは、その原因を2つの視点から読み解きました。
- 顧客体験の分断(セッション1):「チャネル」「データ」「ロジック」がつながっていないために接点の間で文脈が引き継がれず、高まった期待が途中で失われてしまう。
- データノイズ(セッション2):ボットや無効なコンバージョンがAIの学習と顧客分析を歪め、「獲得の壁」と「育成の壁」を生んでいる。
これに対する処方も、それぞれ示されました。攻めの側では、マーケティング設計図で分断のポイントを可視化し、Personality・Context・Momentから一人ひとりの納得感を積み上げていきます。守りの側では、可視化→排除→再配分の3ステップでデータの純度を高め、AIの誤った学習と「実態と異なる顧客像」を防ぎます。
LTVを伸ばしていくには、獲得効率だけを追うのではなく、顧客一人ひとりを起点にした体験設計という「攻め」と、その精度を支えるデータ品質の確保という「守り」の両方が欠かせません。獲得から購買後までを一本の「線」でつなぐために、自社のマーケティング設計図とデータの純度を、あわせて点検してみてはいかがでしょうか。
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