「令和のネットマーケティングを考える」アドベリフィケーションセミナーレポート 第1回 〜主要ベンダーが語るアドベリの“今”&これから〜
6月13日に行われた、株式会社Phybbit主催のセミナー「大手新聞社・大手アプリデベロッパーが考える 令和のネットマーケティング」。
MomentumやPhybbit、IASといった国内外のアドベリフィケーションベンダーや、大手メディアの広告担当者、スマホアプリのマーケティング担当者が登壇し、それぞれの立場からのアドベリフィケーションへの取り組みや姿勢が語られました。
当記事では、主要アドベリフィケーションベンダー3社が取り組んでいる施策や、各社が考えるアドベリフィケーションの現状、その未来についてお伝えします。
<「令和のネットマーケティングを考える」アドベリフィケーションセミナーレポート> 第1回:主要ベンダーが語るアドベリの“今”&これから (当記事) 第2回:パブリッシャーも頑張ってる!自社メディアのブランドセーフティを語ろう(近日公開予定) 第3回:大手アプリマーケ担当が語る!データを活用した攻めと守りのマーケティングの取り組みと事例(近日公開予定) |
<登壇者>(登壇順) 山口 武 様 Integral Ad Science Senior Account Executive・Evangelist 高頭 博志 Momentum 代表取締役CEO 後藤 大輝 様 Phybbit セールス |
【IAS】
インプレッションは「量」「安さ」ではなく「質」で評価する
IAS(Integral Ad Science)の山口様は「アドベリは誰の責任?〜広告主、パブリッシャー、代理店がタッグを組んで取り組む『チームワーク』の提案〜」と題し、すべてのステークホルダーが手を取り合って進めていくアドベリフィケーションの取り組みについて提案しました。
IASでは、アドフラウドやブランドリスクが発生する原因として、インプレッションの「質」ではなく「量」や「安さ」で広告キャンペーンが評価されてしまう状況を挙げ、それにより、品質が悪くブランド毀損につながる広告枠がマーケットに流れてしまっていると指摘します。
その一方で、ツールを導入すると広告単価が頭打ちになり“割に合わない”と考えられたり、コスト負担を広告主とパブリッシャーのどちらが負担するのかといったような議論だったりといった「ネガティブな循環」の存在が問題の解決を阻んでいるとし、広告を売る側と買う側がチームワークを発揮することで「良い循環に変えていきましょう」と提案します。
「まず最初に『量』ではなく『質』を考慮した本質的なKPIで考えましょう。何のために広告を出し、どういった効果を求めるのか?それは決して広告をカチカチとクリックしてもらうことではないと思います。ブランドメッセージを消費者に届けることが、広告の目的であるはずです。
ただ安いだけの広告枠ではなく『きちんと見られていて、安全性が担保されている良質な在庫に出稿する』といった『質』を考慮したメディアプランを組むことで、優良な広告枠を持っていたり、ツールを活用した在庫の整備に尽力されていたりするパブリッシャーにしっかりと予算が流れていき、広告としての目的=認知やコンバージョンも達成されます。
最終的には、インプレッションが量ではなく質で正しく評価されるという循環ができると、広告を売る側も買う側も両サイドがWin-Winになるのではないでしょうか」
「より安くより多く」ではなく、実際に閲覧されている時間や効果を考慮することで、アドベリフィケーションは“守り”だけでなく“攻め”にも使うことができる、としています。
「例えば、『Above/Beyond the fold』(=画面内でスクロールしないでも見ることができる領域/できない領域のこと)の考え方ですと、広告の表示される箇所がページの下部よりも上部にあるほうが単価はかなり上がる形になります。
ですが、優良なコンテンツを掲載されているサイトにおける弊社の計測データを見ると、ページ下部にあっても、記事のすぐ下や隣で表示されているものは、ビューアビリティも閲覧時間もしっかりと確保できています。この点を考慮すると、これまでの広告の値段感や料金設定も変わってくるかと思います」
「これらを踏まえて、目標に沿ったKPIの設定、広告の質に見合った価格設定などをしていくと、パブリッシャーサイドもデマンドサイドもひとつのチームとして、“いい循環”を作り上げていくことができるのではないでしょうか」
【Momentum】
リスクは“ゼロ”にしなければならない
MomentumのCEO・高頭からは、アドフラウドやブランドリスクといったデジタル広告の国内におけるリスクを調査したレポートについてご説明させていただきました。
はじめに、ブランドリスクについては、アドネットワークの在庫でリスクが高い傾向があり、また国内のSSPでは、匿名掲示板のまとめサイトやR-指定コンテンツの在庫が比較的多いことが特徴だと話します。
その一方で、外資系のSSPについては、前述した2つのリスクは低いものの、ポイントサイトの在庫が多いと指摘します。
「ポイントサイトにおける広告在庫は、もともと国内SSPで多かったものが、近年一部の外資系SSPで多くなってきているという傾向がみられています。
この点については、ポイントサイトがアドフラウドの発生源とみられることが多くなり、それを受けて国内SSPが手放した在庫を外資系のプラットフォーマーがバイイングしているのではないか、と弊社では推測しています」
また、ブランドリスクをカテゴリ別に見ると、「ポイントサイト」「匿名掲示板」「R-指定」の順にリスクが高く、最も低いのは「著作権侵害コンテンツ」で0.4%でした。
これは総務省が「漫画村問題」を受け、著作権侵害サイトを「リーチサイトも含め法令違反の対象とする」可能性を示したことが影響しているのではないかと分析します。これらのサイトに広告が表示された際のリスクは非常に高いため、例え割合は少ないとしても対策は怠ってはいけないとしています。
続いて、アドフラウドのリスクをプラットフォームごとに見てみると、一番低いものは8.6%、最も高いものは18.7%と、約2.2倍の差があります。
一方で、どのSSPやアドネットワークから買い付けたとしてもリスクは存在しており、「特定のSSPのみから買い付けることでアドフラウドを回避する」対策をとるのは厳しい状況です。
「アドフラウドの事例についてですが、まず一つ『ドメイン詐称』という手口をご紹介します。例えば、クライアントの配信レポートに、とあるゴルフの情報サイト『A』に広告が出た、と表示されたとします。実は、このサイトはアダルトサイト『B』を内包(ホスティング)していて、実際に広告が表示されたのは『B』でした。配信レポートでは『A』に表示されたことになっているので、クライアントは、本当はアダルトサイト『B』に広告が表示されているということに気づきにくくなっています。
このほか、悪質なサイトが、PMPで配信されるような有名なサイトをiframe内で呼び出すことで広告費を掠め取るといった手口もあり、広告主にとっては『安全で有名なサイトに配信していたと思いきや、実態は怪しげなサイトで表示されていた』こととなり広告費の無駄遣いやブランドリスクにつながってしまいます」
(※調査レポートの詳細についてはMomentumのプレスリリースをご覧ください。)
これらのリスクからデジタル広告を守るために、Momentumでは、「HYTRA」ブランドを掲げ、広告代理店向けブラックリスト提供サービス「HYTRA DASHBOARD」、アドプラットフォーム向けAPI提供サービス「HYTRA API」、広告主向け対策・運用サポートサービス「HYTRA for Advertiser」の3つのソリューションを提供しています。
また、Momentumのソリューションを導入し、アドベリフィケーションに積極的に取り組む広告代理店やアドプラットフォームを認定する制度「Agency Certification Program(ACP)」「Platform Certification Program(PCP)」も展開しており、デジタル広告にかかわる全ての関係者が一丸となった業界の透明化を目指しています。
「現在弊社では『ブランドリスクやアドフラウドをゼロにする』ことをミッションに掲げています。
先述したように、ブランドリスクにおける著作権侵害サイトの割合がかなり低くなるなど、一部のリスクは減りつつあるのですが、それでもまだ不十分で、リスクは『ゼロ』にしなくてはならないと思っています。
そのためには、プレイヤーだけが頑張るのではなく、広告に携わっている全員が努力しなくてはいけません。弊社でも、ご提供できる情報はセミナーなどを通じて惜しみなく出したいと思いますし、皆さんに何かお困りごとがあれば、ぜひお気軽にご相談いただき、一緒にデジタル広告の透明化を進めていければ幸いです」
【Phybbit】
進化を続けるアドフラウドに「データ解析」で立ち向かう
そしてPhybbitの後藤様は、アドフラウド対策における「データ解析」の重要性について、アプリプロモーションにおける「端末のOSのバージョン」の平成から令和にかけての変化を例に挙げて説明されました。
「左のグラフは、iOSの最新のマーケットシェアです。これに対し、右側のグラフは、平成時代の『アドフラウドが疑われるメディアを経由してアプリをインストールした』ユーザーのOSバージョンの分布です。ご覧の通り、『iOS 11.3以下』の古いOSが4分の3を占めています。
何故こうなっているのか?ということですが、東南アジアで多くみられた『クリックファーム』という手口が関係していると推測できます。この手口では、大量の端末を並べてbotを一斉に動かし、クリックやアプリインストールなど、広告の成果を自動的に作り出しているのですが、iOSでは、botを端末の中に入れるためには『JailBreak』という作業が必要です。それをしてしまうとOSのアップデートができなくなるため、OSのバージョンが古いままになっていたと考えられます」
「では、この傾向は令和になって変わったのか?という点ですが、右のグラフを見てみると、時代の流れに合わせてOSのバージョンがそのまま新しくなったように見えます。一方で、マーケットシェアの分布を比べると、平成からかなり傾向が変わっていて、それまでと同じような感覚で対策を進めていると、アドフラウドを防ぎきれなくなる可能性があります。
このように、アドフラウドの手口は日々変化し、進化を続けていますが、データの解析にしっかりと取り組むことで対応することができます」
しかしながら、日常の運用においては「リソースが不足する」といった声もあるといいます。その問題に対し、後藤様は、同社の「SpiderAF」をはじめとするアドベリフィケーションソリューションの導入を推奨しました。
加えて、アドフラウドのブラックリストを、Phybbit社や同社のソリューションを導入している配信事業者で共有する取り組み「SHARED BLACKLIST」についても紹介。こちらにはSupershipのSSP「Ad Generation(アドジェネ)」も参加しています。
「こちらでは、ブラックリストの共有にとどまらず、SHARED BLACKLIST加盟事業者のみが参加できるエンジニア向けのR&D勉強会も開催しております。この勉強会では、どんどん新しくなっていくアドフラウドの手法を紹介したり、その対策について考えたり、といった情報交換をしています。ここで出てきた声も活かしながらSpiderAFは日々進化していますので、ぜひご参加いただければと思います」
「『令和のネットマーケティングを考える』アドベリフィケーションセミナーレポート」、次回からはパブリッシャー&広告主、それぞれの立場からアドベリフィケーションを語ったセッションの模様を2回にわたり、全3回でお届けします!