2024年4月1日より、Supership株式会社は親会社であるSupershipホールディングス株式会社に吸収合併されました。
合併に伴い、存続会社であるSupershipホールディングスは社名をSupershipに変更し、新たな経営体制を発足しました。本件に関する詳細は、プレスリリースをご確認ください。

フェイクニュース問題に対して インターネット広告業界は何ができるか? 〜0から学ぶフェイクニュース勉強会セミナー〜
セミナーレポート

フェイクニュース問題に対して インターネット広告業界は何ができるか? 〜0から学ぶフェイクニュース勉強会セミナー〜

本ウェビナーの目的

世界的に「フェイクニュース」が社会的な問題になっています。そもそもフェイクニュースの定義とはどのようなもので、なぜ問題になっているのでしょうか。そして、フェイクニュースと広告の関連とは?インターネット広告業界はどのように対応すべきなのでしょうか。
そのような問題意識のもと、インターネット広告の健全化に取り組むMomentum株式会社主催で専門家の皆さんをお招きし、講演とディスカッションを行いました。
フェイクニュース問題と広告の関わりについて考える「ものさし」をご提供できればと思います。

第一部:【基調講演】フェイクニュースとは何か?
登壇者プロフィール

笹原 和俊(東京工業大学)

メインスピーカー:笹原 和俊(東京工業大学)
環境・社会理工学院准教授

2005年東京大学大学院総合文化研究科修了。博士(学術)。現在、東京工業大学環境・社会理工学院准教授。国立情報学研究所客員准教授。専門は計算社会科学。主著に「フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ」(化学同人)がある。

第二部:【ディスカッション】広告視点から見るフェイクニュース問題と、広告業界の対応について
登壇者プロフィール

藤代 裕之(法政大学)

共同スピーカー:藤代 裕之(法政大学)
社会学部教授/同大メディア環境設計研究所長

徳島新聞の記者を経て、NTTレゾナントでニュース編集や新サービス開発を担当した。編著に国内のフェイクニュースの実態を明らかにした「フェイクニュースの生態系」(青弓社)、著書に「ネットメディア派遣戦争」(光文社)などがある。

古田 大輔(株式会社メディアコラボ)

共同スピーカー:古田 大輔(株式会社メディアコラボ)
代表・ジャーナリスト

福岡生まれ、早稲田大政経学部卒。2002年朝日新聞に入社し、社会部、アジア総局、シンガポール支局長などを経て、デジタル版編集を担当。2015年10月に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年6月に独立し、株式会社メディアコラボを設立。ジャーナリスト/メディアコンサルタントとして活動。2020年9月にGoogle News Labティーチングフェローに就任。その他の主な役職として、ファクトチェック・イニシアティブ理事など。

徐 暁雋(Momentum株式会社)

共同スピーカー:徐 暁雋(Momentum株式会社)
Chief Technical Officer

プログラマティック広告の黎明期より、株式会社ジーニーにてRTBエンジンのフルスクラッチでの開発、数百億リクエストを捌くためのコアシステムやそのインフラ設計に携わり、海外事業の立ち上げなど、幅広い業務に従事。2016年11月より現職。

柳谷 俊輔(Momentum株式会社)

共同スピーカー:柳谷 俊輔(Momentum株式会社)
Chief Product Officer

楽天株式会社でキャリアをスタートし、エンジニアからアナリストへの異動を経て開発視点での社内コンサルティングに従事。2012年にcomScore Japan株式会社に入社。ワールドワイドなデータ提供プレイヤーという立ち位置からB2Bビジネスを内資、外資問わず担当するとともに、アドベリフィケーションの日本国内での啓蒙活動に従事。 2018年4月にMomentum株式会社に参画、2022年4月より現職。

川口 あい(NewsPicks Studios)

共同スピーカー:川口 あい(NewsPicks Studios)
Business Growth Team Senior Editor

昭和女子大学大学院文学研究科修士課程修了。小学館クリエイティブ、ハフポスト日本版パートナースタジオ チーフ・クリエイティブ・ディレクター等を経て現職。スポンサードコンテンツ制作、メディアビジネス領域に従事。

第一部:【基調講演】フェイクニュースとは何か?

フェイクニュースはどのように発生し、拡散されるのか

シエンプレ社の調査によると、2020年における日本国内で発生した疑義言説は2,615件、1日あたり平均7.2件発生しています。最も多かったトピックは新型コロナウイルス関連のニュースで、間違った感染対策法や陰謀論が含まれていました。これらのニュースがどのように拡散されていくのか実態をひも解くと、まず起点となるコミュニティが存在し、そこから徐々に別のコミュニティへと派生していきます。一握りのスーパー・スプレッダー(強い拡散力を持つ人)を如何に見つけていくかということが、フェイクニュースそのものを軽減する上で重要と言えます。

なぜフェイクニュースは拡散され問題になるのかという点においては、様々な考え方があります。人間がなぜフェイクニュースに騙され、それを拡散しようと思うのか、といった点をきちんと科学的に理解した上で適切な対策を立てていかなければなりません。

上表のとおり人間の思考には、システム1と呼ばれる処理速度が速い思考(直感的、感情的、単純処理)とシステム2と呼ばれる処理が遅い思考(意識的、論理的、複雑処理)があります。フェイクニュースは、このシステム1に働きかけます。刺激的な内容のフェイクニュースに飛びついてしまうのは人間の本能的なもので、この思考の特徴からも騙されやすいことが説明できます。

このような思考の癖以外にも、人間に備わっている100以上の認知バイアスが起因しています。人間は無意識的に自分の価値観に一致する情報のみを集めてしまい、それに反する情報は無視してしまう行動もその一つです。
また、SNSが作る情報環境が「自分が興味・関心が高い情報ばかりがやってくる心地よい状態」と言えることも手伝っています。SNSは情報拡散装置であり、大抵の場合は自分と興味・関心がある人が繋がっている環境なので、自分が発信した情報がシェアされるとカスケード式に増幅されやすい特徴があります。

そしてフェイクニュースが拡散されやすいことの大前提には、情報過多の時代であることが挙げられます。情報の生産量自体が増えており、その中には必ずしも正しくない真偽不明の情報がたくさん紛れ込むようになっています。人間自身がそういった情報を作り出していることもありますが、botのようなオートメーション化されたツールが生み出している側面もあります。また、ディープフェイクのように人間が見ても正しいか否かを見抜けない、場合によってはAIですら見抜くことができない非常に精緻・高度なフェイクも出現しています。

フェイクニュースの処方箋はあるのか

フェイクニュースにどのように対抗するべきか。SNSのユーザー一人ひとりが情報リテラシーやメディアリテラシーを鍛えることをやっていかなければなりません。Evidence(証拠)、Source(情報源)、Context(文脈)、Audience(読者/誰向けか)、Purpose(目的)、Execution(完成度)の頭文字を取って「ESCAPE」という行動に注目をしてニュースを見ると、騙されにくくなります。この中でもSource(情報源)を確かめることは最も有効です。

また社会全体として持つべき機能として、ファクトチェック(事実検証)があります。ファクトチェックはIFCN(International Fact-Checking Network)が定めた国際的な基本原則に基づき実行します。世界各国で活動するファクトチェック団体は約160あり、うちアジアは24団体です。欧州や北米と比較すると、アジアはまだまだ少ないといえます。ファクトチェック団体の活動はニュースの真偽判定に加え、ファクトチェックツールの開発も行っています。そもそもどのニュースをファクトチェックするべきか(フェイクニュースと疑わしい記事はどれか)を判定することが難しいため、その部分を自動化するツールが今後非常に重要となります。

情報生態系を汚染するフェイクニュースの実態について

フェイクニュースは、情報生態系の構造的問題として捉えなければ、中々解決できません。上表のように、この生態系にはフェイクニュースの発信者と受信者が存在します。発信者と受信者の間にいる媒介者の周りに、様々なフェイクニュースの要因となり得るものがあります。情報生態系の問題として捉えるということは、どれか一つでも狂ってしまうと全体が暴走しかねない構造だということです。フェイクニュースとなり得る要因には、ネット広告、ターゲティング、アルゴリズムなどのネット広告に関係するキーワードが含まれています。即ちフェイクニュースの問題は、今後のネット広告をより良いものにしていくために考えるべき問題なのです。

第二部:【ディスカッション】広告視点から見るフェイクニュース問題と、広告業界の対応について

フェイクニュースに広告掲載されることが、一体どういうことなのかお伺いできますか。

柳谷:フェイクニュースと思われる面に広告が掲載されることは、いわゆる公序良俗に反する面に掲載された時と同等のリスクがあると考えます。それは広告主である企業の経営に悪影響を及ぼす可能性があるということです。

徐:フェイクニュースを機械的に判定することが、今後のMomentum社のビジネスにおいても非常に重要となります。例として、新型コロナウイルスのワクチンに関するフェイクニュースが出てきた際に「ワクチン関連の面に、広告を掲載しないようにして欲しい」と広告主から依頼を受けることがあります。そうすると当然のことながら、正しくワクチンの情報を掲載しているニュースメディアも除外されてしまいます。100%の確率でフェイクニュースと見極めることが出来るシステムがない限り、そのような難しい問題を完全に解決できる術がないのが現状です。

古田:ワクチンを正しく説明している素晴らしい記事に広告が掲載されないともなると、ワクチンに関する記事を出すメディア側のインセンティブが低くなってしまいます。とは言え、言論の自由を守ることだけを優先した結果としてフェイクニュースを野放しにしてしまうと、今度は色々な情報が何の制限もなく拡散されていきます。この状況を「難しい」という一言で片づけてしまうと状況は悪くなる一方なので、着実に対処していくことが重要です。

海外では、フェイクニュースにどのように対応しているんでしょうか。また、日本国内におけるフェイクニュースの捉え方はいかがでしょうか。

古田:まず海外では、ファクトチェック機関が近年急激に増えています。新型コロナウイルスに関する誤った情報やデマに対峙しようと、活動を始める組織が現れたことがきっかけの一つです。日本で言う全国紙、民放キー局など規模が大きいメディアがファクトチェックチームをつくったり、ファクトチェック専門の新興メディアが生まれたりもしています。他にもジャーナリズムを専門とされる大学の方々がチームを組成したり、NPOとして活動するケースも増えています。日本はそのいずれもほとんどありません。その理由の一つに、ファクトチェックの記事は情報量が多く、長くなってしまうことで掲載枠が限られた紙やテレビ媒体では取り組みづらいハードルがあることです。また、日本では新聞などの紙媒体の影響が依然根強い文化なので、ネットだけに記事を載せるわけにはいかない事情があります。もちろん日本でもファクトチェック機関はありますが、強化していく必要があると考えています。メディアや教育機関、NPOなど、互いに情報共有をしてネットワークを広げることも重要な活動です。

藤代:複数の機関が存在することのメリットは大きいですよね。フェイクニュースと疑われる情報が出た時、5つある機関のうち3つの機関がフェイクニュースと判定すれば、信憑性が増します。日本においてファクトチェック機関が増えない理由の一つに、大学の資金問題もあります。米国では研究のためのまとまった資金が大学に入りますが、日本ではそういった予算もありません。そういった金銭的な問題も、アドベリフィケーションの問題に関係していると言えます。

笹原:日本の場合だとフェイクニュースのモデルをつくろうとした時、データの総量が圧倒的に少ないという課題もあります。場合によっては東日本大震災まで遡って風評被害の検証を行いますが、それではデータとして古いうえ、災害というトピックに偏りすぎているので使いづらい事情があります。根拠となるデータを確保するための実証実験を行うこともありますが、それを我々のような研究者がきちんと利用しAIのトレーニングに使い、フォーマットを整えなければ中々スケールしていかないと思います。

柳谷:フェイクニュースの存在を懸念する事業者は確実に増えています。ではフェイクニュースに対して実効的な対策ができているのかを問われると、対策ができている事業者はかなり少ないのが現状です。それはMomentum社が提供するサービスとしても、まだ道半ばの状況です。

フェイクニュースに広告が掲載されないようにするための抜本的な解決策を講じることが難しい中でも、短期・長期視点でやるべきことがあれば教えてくいただけますか。

藤代:「このサイトには広告を出さない」という要領で区分する、いわゆるブラックリストやホワイトリストを作っていくということが手段の一つだと考えます。問題は何を持って判別するのかを明確にするための基準です。ファクトチェック自体はサイト単位ではなく、コンテンツ単位でチェックするものですが、昨今の状況を鑑みてもそういったリストの作成に踏み切るべき状況に来ているのでは、と捉えています。

柳谷:広告業界として何をフェイクニュースとして扱い、そこにどのように対処していくのかガイドラインを策定することの重要性を感じています。Momentum社だけの力では難しいので業界全体での取り組みを推進することによって、日本におけるネット広告の信頼性を引き上げていきたいです。

古田:多種多様な立場の人がそれぞれの場所で頑張ることが大切だと思います。私ならばファクトチェック機関を立ち上げる、教育者の方々であればメディアリテラシーの向上活動を、広告業界の方々はガイドラインを策定される、といった取り組みになると思います。現状、問題の根本を解決できる術がないのであれば、皆ができることを実行しながら戦っていくしかないと考えます。いきなり完璧なガイドラインを作ることは難しくとも、ベースとなるガイドラインが一つ出来たらそれは本当に大きな一歩になるのではないでしょうか。

誤情報はファクト情報より速く・深く拡散するとありましたが、対策方法はあるのでしょうか。

笹原:正しい情報(真実)はつまらないから拡散されにくく、間違った情報は驚きが多いため速く・深く拡散されてしまいます。フェイクニュースが生産される元凶を封じ込むことは難しいとしても、誤情報が拡散されることを如何にして抑制できるかがポイントだと思います。

古田:正しい情報をシェアすることのインセンティブが少ないため、拡散のスピードや量が減ってしまうことは第一部でも述べた人間の特性を考えてもある種しょうがないことだと思います。しかしながら一度ファクトチェックをすれば、同じような誤情報が何度も拡散される過程で、必ず誰かが「それはもうファクトチェックされている」と指摘してくれるものです。正しい情報を広げてくれる方や中間層にとって、ファクトチェックをした事実は有効に働きます。

藤代:正しい情報を増やして間違っている情報やフェイクニュースを減らしていくことに、広告は非常に効果を発揮すると思います。正しい情報に資金を投入することでフェイクニュースを少しずつ減らしていくということです。

本日はありがとうございました。


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